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『フランダースの犬』の犬種は何だったのか?

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フランダースの犬』(ヴィーダ・作 横山洋子・監修 那須田淳・編訳学研プラス・刊)を読んで、また泣いた。
子どもの頃から何度も何度も繰り返し読んできた不朽の名作、読むたびに度に、悲しい結末に涙が止まらなくなる。

画家になることを夢見ていた貧しい少年ネロと犬のパトラッシュが天に召される前に観たルーベンスの絵を、私もこの目で観たくてベルギーのアントワープ大聖堂まで出かけたこともある。

が、私たち日本人が大好きなこの名作、実はベルギーではあまり人気がないらしい。

日本人観光客のために作られたネロとパトラッシュの銅像

『フランダースの犬』の物語の舞台になっているのはベルギーのフランダース地方だが、ヴィーダはイギリス人でこれはイギリス文学。

ベルギーでも出版はされているが、主人公がかわいそうすぎると、その評価はあまり高くないそうだ。

いっぽう、この名作が大好きな日本人はベルギー観光といったら、まっ先にフランダース地方を訪ねたいと思う。

しかし、ネロたちが暮らしたホーボーケンという村にも、また、アントワープの街にも、物語を彷彿させるさせるものは以前には何もなかった。

が、あまりに日本人観光客からの問い合わせが多いため、1986年にはホーボーケンに、ネロとパトラッシュの銅像が建てられ、さらに2003年にはアントワープ大聖堂前の広場に日本が贈呈したフランダースの犬の記念碑が置かれるようになった。

銅像の犬はブービエ・デ・フランダース

さて、パトラッシュの犬種だが、ホーボーケンの銅像はフランダース地方が原産のブービエ・デ・フランダースだ。

耳がたれているモコモコの大型犬で顔はシュナウザーに似ている。だから私たち日本人が長年『フランダースの犬』の絵やアニメで見て親しんできたパトラッシュの姿とは、かなりかけ離れているのだ。

ブービエ・デ・フランダースはこの地方で活躍してきた優秀な牧羊犬だが、ヴィーダが書いた『フランダースの犬』が世に出たのは1872年で、その頃には、まだブービエ・デ・フランダースは犬種としての登録はされていなかったという。

では、パトラッシュは何犬だったのだろう?

ベルジアン・タービュレン説もある

フランダース地方の多くの犬は、黄色っぽい毛なみをした大型の犬で、耳はオオカミみたいにぴんと立っています。

先祖から何代にもわたって、家ちくとして、つらくてきびしい仕事をさせられてきたおかげで、筋肉はもりもり発達して、四本の足も、がっしり太くなっていました。

(『フランダースの犬』から引用)

この記述、そして絵から推測すると、パトラッシュはシェパードに似ている。

犬図鑑で調べてみると、ベルギー原産で古くから牧羊犬、使役犬として活躍した犬に、ベルジアン・シェパード・ドッグがいた。しかし、19世紀になるとこの犬たちの仕事が減り、一度は絶滅の危機に瀕してしまう。が、その後、生き残りから4種に分類されブリーディングが行われた。黒く毛足の長いベルジアン・シェパード・ドッグ・グローネンダール、黄色の短毛で耳と口先が黒いベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア、ベージュで巻き毛のベルジアン・シェパード・ドッグ・ラケノア、そして黄色と黒の混ざった毛足の長いベルジアン・シェパード・ドッグ・タービュレン。この4種は現在も愛好家から親しまれている犬たちだ。

で、絵から見るパトラッシュは犬図鑑のタービュレンの写真とそっくり! あくまでも私個人の意見だが、パトラッシュはタービュレンの祖先であるベルジアン・シュパード・ドッグに違いないと思う。

現在、日本ではタービュレンは警察犬、介助犬、聴導犬としても大活躍している、とても賢い犬だ。

体高は56~65cm、体重は28キロ前後。性格は愛情が深く、飼い主に従順だが、とても勇敢でもあるという。

ネロとパトラッシュの絆

現在では犬に荷車を引かせるなどは法律で禁止されているが、物語が書かれた時代、フランダース地方の犬たちは労働犬として活躍していた。

パトラッシュは村(ホーボーケン)の牛乳を荷車に乗せて、5キロ離れたアントワープの街まで運んでいた。そして、そのわきには、いつもネロがいた。

ネロのいちばんの友だちは、パトラッシュです。

「ぼくらは、ずっといっしょだよね。」

ネロがそういうと、パトラッシュは「もちろん」とばかりに「ワン!」とほえ、しっぽをパタパタとふってくれるのです。

(『フランダースの犬』から引用)

ネロはパトラッシュにとてもやさしく、「だいじょうぶかい、つかれたら休むんだよ」といつも声をかけていた。そのやさしさは最後には、パトラッシュだけは救おうとまでした。

「パトラッシュにごはんをやって、休ませてもらえませんか。それから、ぼくのあとを、追いかけてこないように――」。

(『フランダースの犬』から引用)

期待していた絵のコンクールにも落選し、貧しい小屋の家も追われ、精根尽き果てたネロが、パトラッシュだけは救いたいと思った気持ち、犬を飼っている私にはとてもよくわかる。

私だけでなく、愛する犬を守ろうとするのは飼い主として当然の心理ではないだろか。

犬は飼い主には忠実

でも、犬にとっての幸せは最後の最後まで飼い主のそばにいることなのだ。

だから、パトラッシュはアロアの家で出されてごちそうにも、いっさい口をつけず、また、一瞬のすきをついて、外に飛び出し、ネロを探した。

ネロに会いたい一心で、老犬パトラッシュは雪の中を、最後の力をふりしぼって追う。

そうして、アントワープ大聖堂の冷たい床に倒れているネロを見つけたのだ。

「ああ……おまえか。」

ネロが、うっすらと目を開けました。やさしい友だちの顔が、すぐ間近に見えます。

(きみを見すてると思ったの? このパトラッシュが……?)

パトラッシュが、そう、目で語りかけてきます。

「ごめんよ、パトラッシュ。ぼくたち、もうふたりぼっちだね。」

ネロがきつくだきしめると、パトラッシュもそれにこたえて、さらに体をよせました。その犬の目からは、大つぶのなみだが、あふれてきました。でも、悲しかったからではありません。今、パトラッシュはネロにもう一度会えて、ほんとうに幸せだったのです。

(『フランダースの犬』から引用)

愛情たっぷりに育てられ、常にやさしく接してもらった犬は、どんな犬種であれ、飼い主を裏切ることはなく、忠実なものだと思う。

(文:沼口祐子)

フランダースの犬

著者:ウィーダ(作) 横山洋子(監修) 那須田淳(編・訳)
出版社:学研プラス
祖父と、犬のパトラッシュと暮らす少年ネロの夢は、画家になること。つつましくも幸せな生活を送っていましたが――。
ネロとパトラッシュの友情に心を打たれ、待ち受ける悲しい結末に考えさせる不朽の名作。さくさく読める世界名作シリーズ第19弾。

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