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オグリキャップという名の怪物の正体は、人懐こい芦毛の馬だった

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3月14日のホワイトディ。
あなたはどうお過ごしでしたか?
私は1頭の競走馬のことを考えながら、過ごしました。
芦毛と呼ばれる灰色がかった白い体をした馬で、その名はオグリキャップ
競馬に興味のない方でも、名前くらいは聞いたことがあるでしょう?
武豊騎手とのコンビで挑んだラストランはそれはそれは見事なレースで、今では伝説として語り継がれています。

怪物オグリキャップは人気者

オグリキャップは最初から人気者だったわけではありません。
仔馬の頃は、右の前足が外に向いていたといいます。競走馬にとっては、致命的な欠点です。
けれども、生産牧場長である稲葉不奈男が根気強く毎日、爪を削り続け、少しずつ少しずつ矯正していきました。
稲葉牧場長も立派ですが、オグリキャップも嫌がらず、自分からすすんで足を上げたといいます。
普通なら、爪を切る役と脚を押さえる役の二人がかりで、やっとこさっとこ爪を切らせてもらうという感じなのに、オグリキャップは協力的でした。
人間をとことん信用しているのか、素晴らしく頭がいいのか、競走馬として必要なことだと本能で知っていたのか、もの言わぬ彼に聞いてみることはできませんが、とにかく非常に不思議な馬だったと言っていいでしょう。

死ぬまでアイドルであり続け・・・

白の時間』(学研プラス・刊)は、オグリキャップに魅せられた写真家・内藤律子が20年にわたって撮り続けた作品を集めた写真集です。
彼女は、オグリキャップが引退し、子供を作るために種馬として故郷に戻って来てからずっと彼に寄り添ってきました。
豊かな表情や、ほれぼれするような動きをするオグリキャップは被写体として最高でした。

けれども、彼女がオグリキャップに惚れこんだのは、それだけが理由ではありませんでした。
自身が白内障を患い、写真家として不安と焦りを感じたとき、いつもそこにオグリキャップがいてくれたのです。
物が二重に見えようとも、オグリキャップの写真を撮ると「これは」という手ごたえを感じる作品が出来上がったといいます。
どんな姿を撮っても絵になる“アイドル”だったのです。

ファンの人気も衰えることなく、写真展をすれば、オグリキャップの写真にはたくさんの人が群がり、自分にとってオグリキャップがどんな存在か、いかに大切か、語り続けたといいます。
この世を去った後もなお、オグリキャップはファンに囲まれ「センター」に立ち続けた人気者だったのです。

幼名はハツラツ

オグリキャップがオグリキャップという名前になったのは、馬主さんを得て、競走馬となってからです。
それまでは「ハツラツ」という名前でした。
言うなれば元服前、牧場で生まれて育つ間は、幼名のハツラツとして暮らしたのです。
ハツラツという名前には、わけがあります。
仔馬が生まれた頃、稲葉牧場は沈みこみ暗い状態にありました。
家族に病人もいて、レースで走る馬も出ず、牧場自体を閉めるべきかと、悩んでいた時期にあたったのです。
けれども、場長は考えます。「落ち込んでいたって駄目だ。はつらつとした気持ちでやっていこう」と。
そして、ちょっと足に問題を抱えた仔馬ではあるけれど、明るく大事に育てたいと願い、ハツラツの名前を与えたのです。

17万人のオグリコール

1987年、地方の競馬場である笠松でデビューしたオグリキャップは、順調に勝ち星を重ね、12戦10勝をあげます。
そして、翌年、中央競馬に移籍してからも快進撃を続け、なんとGⅠに4勝します。
ファンは地方の馬が中央にきても臆することなく走る姿に感動し、力をもらい、声をからして応援したのです。
こうして人々の夢をのせて走り続けたオグリキャップでしたが、脚をいためたこともあり、次第に優勝から遠ざかるようになります。
ところが、オグリキャップはやはり普通の馬ではありませんでした。
引退レースとしてのぞんだ有馬記念で、武豊とのコンビで奇跡の復活を遂げたのです。

その日、中山競馬場には17万人の人がつめかけました。怪物の最後の姿をまぶたに焼き付けたかったのでしょう。
オグリキャップが勝ったとき、地鳴りのような歓声がしたといいます。
17万人の人が優勝を祝い「オグリ、オグリ」と連呼したシーンは、今も伝説として語り継がれています。
オグリキャップが「レジェンド」となった日だといえましょう。

どちらがボスだったのか?

競走馬は人間によって作られた存在です。
父馬も母馬も、人間が血の配合を考えて決め、仔馬が作られます。
生まれた仔馬は、競走馬になるべく、人間が手をかけ、調教し、母親からも一定の時期が来たら離して育てられます。
徹底して 馴致(じゅんち)された動物なのです。

競走馬ですからレースに勝たなければ終わりですし、引退したら、次のスターホースに道を譲らなければなりません。
けれども、オグリキャップの場合、周囲からファンの姿が消えることはありませんでした。
多くの人が勇気や希望や愛をもらったと感謝し、オグリキャップに会うために牧場まで出向いたというのです。
まるで引き寄せられるように・・・。
これでは、どちらが馴致されたのかわかりません。

『白の時間』を開いていると、人を恐れず、人になつき、天真爛漫な姿で人々を魅了した1頭の馬の姿が浮かび上がってきます。
おかげで、幸福なホワイトデーの午後を過ごすことができました。
愛を返す日にふさわしいとは思いませんか?

(文・三浦暁子)

白の時間

著者:内藤律子
出版社:学研プラス
2010年夏に急逝した、日本競馬史上最大のアイドルホース・オグリキャップ。引退レースとなった有馬記念から始まり、北海道へ渡ってからの種牡馬としての生活、種牡馬を引退し本当の余生を迎えてから死の直前までの姿を貴重な写真で綴る、一周忌追悼写真集

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