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日本人を不幸にする「排除型経営」

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いま日本は、「包摂型社会」から「排除型社会」へと変化しています。
この問題における「包摂(ほうせつ)」とは、「人並みに生きることを認める」という意味です。

たとえば労働者として、企業に包摂されている人たちは「正社員」と呼ばれます。
昇給や賞与や福利厚生を受けられる立場です。

その一方で「非正規社員」に区分される人たちは、企業に「包摂」を拒まれています。
おなじ職場で働く身でありながら、非正規社員は、正社員のような優遇を受けることができません。

いわば「仲間はずれ」です。このような「排除」が日本では当たり前になっています。

「排除」のスパイラル

正社員の安定性や終身雇用など、もはや昔話です。
景気低迷や業績悪化が生じれば、恥も外聞もなく、まっさきに人員削減をおこなうことが当たりまえになったからです。

いわゆる「派遣切り」をはじめとして、企業による排除の対象は「非正規社員」だけと思われがちですが、2017年現在では、包摂されているはずの正社員の地位すら危うくなっています。

評論集『軋む社会』(本田由紀・著/河出書房新社・刊)は、「包摂」を放棄しはじめた国家や企業に対して警鐘をならしています。

企業による「排除」の具体的な事例を紹介しましょう。

正社員ですら「排除」される時代

2016年に、大手人材派遣会社による不祥事が発覚しました。
NHKクローズアップ現代「“新リストラ時代”到来!? 業績好調なのになぜ」というテレビ番組でも報道された事件です。

転職や再就職、つまり生活の安定を支援するはずの人材派遣会社(A社)が、大手製紙会社に対して「リストラによる早期退職をうながす」提案をしていました。
委託を受けた人材派遣会社が面談をおこなって、リストラ候補者を転職(実質的な退職)させるというものです。

A社の提案によって生み出された大手製紙会社の早期退職者は、A社の再就職支援サービスを申し込む流れになっていました。つまり、失業者を作りだす提案を持ちかけて、再就職紹介の手数料を受け取るという「マッチポンプ」です。

NHKの報道によれば、A社がリストアップした社員が再就職までこぎつけたあかつきには、1件につき60万円の成功報酬がA社に支払われていました。この一部に、国の税金(労働移動支援助成金)が含まれていたことから、大きな問題として注目されました。

マジメな若者がおちいる「働きすぎ」の罠

注目すべきは、A社にそそのかされて早期退職者を募った製紙会社が、その時点では業績好調だったことです。
つまり、人材の精鋭化をおこなって、営業力や財務体質を強化するためのリストラでした。

大企業に「包摂」されているはずの正社員ですら、思わぬ「排除」におびえて働かなければならないのが、日本の現状なのです。

それゆえ典型労働者の社会への包摂とは、高いハードルを課されたうえでの見せかけの包摂であり、
そのハードルを超え続けることができなくなる者を、絶えず外へと排除していくメカニズムを内にそなえている。

(『軋む社会』から引用)

日本の大学生は、社会的に「包摂されたい」「排除されたくない」と考え、在学中にもかかわらず、勉強そっちのけで就職活動に励んでいます。
相次ぐリストラや、景気の調整弁としての非正規雇用システムの横行が、若者たちに「有用な人間でなければ排除されてしまう」という強迫観念を植えつけたからです。

「社会の役に立ちたい」「会社にとって有用な人間でありたい」という気持ちが強くなりすぎると、やがて「違法なサービス残業」や「過労死」を引き起こします。

親世代の資産を食いつぶしているのは誰?

とくに、低収入の若年非正社員が、すでに三人に一人に達するほどの規模になっていることについて、そのような事態がなぜ社会全体として成立可能なのかを、あらためて考えてみる必要がある。

(『軋む社会』から引用)

年長フリーターや非正規雇用にともなう低収入の若者に否定的な論者は、「若者が豊かな親世代に依存し寄生(パラサイト)しているために、あくせく働かないからだ」と言います。それは正しい指摘なのでしょうか?

『軋む社会』の著者である本田由紀さんは、つぎのような考えかたを紹介しています。

社会学者の居郷至伸は、この問題に関して、個々の若者が個々の親に依存しているのではなく、経済システムが家族システムの含み資産──親世代の収入、住居、家電など──に依存しているのだ、という興味深い見解を打ち出している。

(『軋む社会』から引用)

ニートやひきこもり問題についても、同様のことが言えるかもしれません。
国や行政が、学校教育や職業訓練への税支出を十分におこなわず、民間家庭(親世代)の含み資産に甘えてきたとも見なせるからです。

これまで紹介した「排除」が横行する日本では、いまこの瞬間にもだれかが不幸になっています。
包摂型社会への回帰を望みます。

(文:忌川タツヤ)

軋む社会

著者:本田由紀
出版社:河出書房新社
希望を持てないこの社会の重荷を、未来を支える若者が背負う必要などあるのか。この危機と失意を前にし、社会を進展させていく具体策とは何か。増補として「シューカツ」を問う論考を追加。

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