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仕事や恋愛、困ったときに助けてくれる兼好法師の教え

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平安時代の文学をこよなく愛するフランス人一家が「次に会ったらKenkoについて語り合おう」と言ってきた。
以前、このフムフムに清少納言の枕草子について書いたとき、彼らとのエピソードを書いたよと教えてあげたらページを見て大喜び(といっても彼らは日本語は読めないから写真や文字をながめただけだが)。

で、次は、兼好法師(吉田兼好)をすすめてきたのだ!

『徒然草』も“徒然なるままに日暮らし……”しか知らない私は、またまた焦りまくった。

フランス人のおすすめは『徒然草』第188

パリで暮らしている娘と犬に会うためにとんぼ返りでフランスに行ってきた。件の一家は娘のお目付け役でもあるので、素通りするわけにはいかない。で、出発前に行きますよとメールしたら、添付ファイルつきで返信がきた。

ファイルのタイトルは「Comment ouvrir le parapluie?」(どう傘を開くか?)でKenkoから引用とあった。

一家のパパでフランス語教授のヴァンサンが『徒然草』で最も素晴らしいと評する箇所を教えてきたのだが、それが原文の第何段なのかは書いてなく、私にとってはチンプンカンプン。とりあえず、辞書を引き引き、内容を把握して、ようやく、原文の第188段であることがわかった。

或者、子を法師になして……”

僧侶になるために、その子は馬に上手に乗れなくては恥ずかしいとまず乗馬を習い、また酒の席で芸も披露できねばと早歌を習い、そうこうしているうちに肝心の説法を習得する時間がとれず老いてしまった。と、この段では、やるべきことを優先的に行う大切さを説いている。

雨がやむのを待っていては遅い!

さて、パリの一家を訪ね、夕食を囲みながらの話題はやっぱり『徒然草』だった。

ヴァンサン曰く、その段(188段)で一番感動するのは後半だという。

「平安時代後期の僧侶、登蓮は大事な話を聞きに行くのには雨降る中でも、すぐに駆けつけた。周囲の人々は雨がやむまで待てばいいのにと言ったが、登蓮は「笠か蓑を貸してください」と言い急ぎ向かった。人の命は雨がやむまで待ってはくれない。今、行動しなければ答えは得られないという教えなんだ。こういう見極め、即、行動が大事なんだよ」

そしてヴァンサンは彼らの娘たちと、わが娘にこうも言った。

「いいか、これだ!と思ったときには、迅速に行動するんだぞ。成功する人間とは、その見極めができるってことなんだ」と。

いやはや、私はフランス人から日本の古典を教えられてばかりだ。とりあえず、自分の無知をごまかしつつ、なんとか会話には付き合え、ほっとして帰国した私だった。

迷ったとき、落ち込んだときに読みたい”兼好さん”

行き詰まったときの兼好さん』(田村秀行・著すばる舎・刊)は、今更ながら“徒然草”を勉強し直さないとと思って読み始めた本だ。現代を生き抜くヒントになる記述を抜粋し、解説したものなので、さらりと読め、またとても参考になる。

兼好さんが言うのは確かにそうかも。で、そんなふうに考えると、生きるのが楽になるし、ほっとするなぁ」と感じてもらえるのではないかと思います。

仕事も勉強も恋も、目いっぱい打ち込んでいると大変です。(中略)たまには息抜きして、あんまりくよくよしないようにしませんか。

(『行き詰まったときの兼好さん』から引用)

では、気になる記述をちょっとのぞいてみよう。

優越感をなくすと劣等感も消えてしまう!

(原文)手のわろき人の、はばからず文書きちらすはよし。見苦しとて、人に書かするはうるさし。(第35段より)

自分の筆跡が悪いのを認識したうえで、それを隠そうとするとコンプレックスが生まれる。でも、他人からそれを指摘されても隠そうとせず「ええ、下手なんですよ」という調子でいれば平気でいられるようになるという教え。

さらに著者は誰にでもできるコンプレックス克服法として以下をすすめている。

劣等感をなくすのはかなり難しいので、逆に自分の「優越感」を消すのです。自分が何かができるのは優越ではなく一つの特徴なのだと思って、できない人をバカにする気持ちをなくすわけです。そうすると、不思議に劣等感のほうも薄くなってくるのです。

(『行き詰まったときの兼好さん』から引用)

知ったかぶりは美しくない!

(原文)何事も入り立たぬさましたるぞよき。よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやはいふ。(第79段より)

何事でも深く立ち入らない様子をしているのがよい、「よき人」というのは、知っていることだからといってそれほど知り顔に言うものだろうか、と兼好さんはいう。

これは上に立つ人の態度についての心得だ。

現在で言えば、組織の長になって全体を見渡す立場の人に言えることでしょう。

自分で得意なことであったとしても、専門分野のことは下の者に任せて、自分では細かく口を挟まないということが、その立場では必要なのではないかと思います。

(「行き詰まったときの兼好さん』から引用)

変えないことの勇気をもつ

(原文)改めて益なき事は、改めぬをよしとするなり。(第127段)

この段はこれで全文。兼好さんにとっても、これでこの事柄は言いきっているという思いがあったのだろう。

何でも世の中の流れに合わせる必要はない。変えないことの勇気をもつのも大事、という教え。

人間は、どうしても「新しいことがしてみたい」「古いものに飽きてくる」ということがありますから、それで益が出るともいえないのに改めてしまうものです。(中略)それを防ぐにはどうしたらよいでしょう。一言でいって、《変えないことの勇気》をもつことではないでしょうか。

(『行き詰まったときの兼好さん』から引用)

本書には、この他にも、生きやすくなるためのヒントが続々だ。

(文:沼口祐子)

行き詰まったときの兼好さん

著者:田村秀行
出版社:すばる舎
本書では、元祖・人間通の文学者、兼好法師がのこした不朽の中世随想文学『徒然草』を「田村の現代文講義」でおなじみの名物講師が新解釈しています。 激動の世に生きる悲しみと妙味を知り尽くした名随想家の眼で現代を眺めると、あら不思議、心がスーッとラクになり、ほっこり前向きになれるのです。人生の岐路や曲がり角にある人だけでなく、仕事の合間の息抜き、恋わずらいの鎮痛剤としても役立つ、かも!?

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