ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

あなたが知らない「裏ノーベル賞」の世界

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

2015年3月14日に北陸新幹線が開業した。当日、金沢駅にダンディ坂野が来ていたらしい。ダンディさんは、石川県出身のお笑い芸人なのだ。ゲッツ!

いままで、鉄道をつかった「金沢-東京」間の移動は4時間以上もかかるうえに乗り継ぎが必要だった。北陸新幹線のおかげで直通になり、しかも2時間半にまで短縮された。ついに「東京-大阪」の所要時間とほぼ同じになった。

私は石川県金沢市にゆかりがある者なので、新幹線『かがやき』デビューを記念して、ちょっとした金沢トリビアを披露したいと思う。

金沢には日本三大名園の『兼六園(けんろくえん)』があり、その敷地内には、あの「イグ・ノーベル賞」にまつわる銅像が建っているのだ。

イグ・ノーベル賞とは?

イグ・ノーベル賞は「世間を笑わせ、考えさせた研究」に対して与えられる。別名・裏ノーベル賞。創設は1991年、主催しているのはユーモア研究雑誌『Annals of Improbable Research』だ。授賞式は毎年、アメリカのハーバード大学でおこなわれており、真面目なのかフザけているのかよくわからない賞だ。

本家ノーベル賞は欧米の研究者たちの独壇場だが、イグ・ノーベル賞においては日本人研究者が大健闘している。

2015年現在、受賞研究は10件以上にのぼり受賞者数は50名をこえる。1992年に「足の匂いの原因となる化学物質の特定」という研究が初受賞してからというもの、ほぼ毎年のように日本人による研究がイグ・ノーベル賞をゲットしている。

なぜかハトを寄せつけない銅像

2003年には「ハトに嫌われた銅像を化学的に考察した業績」に対してイグノーベル化学賞が与えられている。その「ハトに嫌われた銅像」が、金沢市内にある兼六園に建っているのだ。

イグ・ノーベル賞を射止めた日本人研究者とは、金沢大学の廣瀬幸雄教授だ。兼六園にはいくつも銅像があってハトのフンまみれになっていた。そのなかで唯一「日本武尊(ヤマトタケルノミコト)」の銅像だけは、なぜかフン被害がほとんど無かった。

兼六園の日本武尊像は「西南戦争で戦死した郷土出身の兵士を慰霊するため」に建てられたものであり、フン害が無いのは霊験によるものだと思われていた。しかし、廣瀬教授が銅像の成分を調べたところ、ほかの銅像に含まれない「微量のヒ素」が検出された。この研究結果は、鳥類のフン被害対策になやむ世界中の人々を救うものだ。

この業績で脚光を浴びたことより、廣瀬さんを先生にむかえた『NHKようこそ先輩』が制作された。もともと地元ではコーヒー好きの大学教授として知る人ぞ知る存在だったが、ついにNHKも認める「世界のヒロセ」になったわけだ。石川県にゆかりのある者としては、じつに誇らしい。えっへん。

アイアンマンになれなかった男

徹底した秘密主義によって選考をおこなう本家ノーベル賞とは異なり、イグ・ノーベル賞は「他薦」や「自薦」を受け付けている。毎回、どうしようもなくおバカな研究の報告も多数寄せられるそうだ。

めざせイグ・ノーベル賞 傾向と対策』を読んでいちばん興味ぶかいと思ったのは「凶暴なクマと互角に戦うためのロボットスーツ」を開発した男のエピソードだ。

トロイ・ハートバイスというカナダ人男性は、1998年に「グリズリーにも負けないスーパースーツを発明した功績」によって、イグノーベル安全技術賞を受賞した。

あるとき、ハートバイスさんはグリズリー(ハイイログマ)に襲われて九死に一生を得た。あまりにも衝撃的な体験だったせいなのか、ハートバイスさんはグリズリーに会っても平気でいられるスーパースーツの開発を決意する。

グリズリーは映画などで「殺人クマ」として描かれるほど凶暴であり、山中で出会った場合には、200kg超の巨体が時速50kmで向かってくる。出会って3秒で絶望するレベルの猛獣だ。

ハートバイスさんは、対グリズリー用スーツを開発するために無茶な実験を繰り返した。時速50キロで走っている3トントラックにわざと衝突したり、スーツの装甲にショットガンをブチこんでみたり、スーツ着用のまま15メートルの高さから飛び降りたり。あの日に出会ったグリズリーとふたたび相まみえるために。

そして、ついに対グリズリー決戦スーツ『ウルサス・マークⅣ』が完成したとき――ハートバイスさんは自己破産におちいってしまう。多額の開発費用のせいだった。『アイアンマン』のトニー・スタークにはなれなかったわけだ。

世にも奇妙な「青いゴマ」の真実

ちなみに、ハートバイスさんの開発秘話をもとに『プロジエクト・グリズリー』というドキュメンタリー映画が製作されている。あのクェンティン・タランティーノが(たぶん半笑いで)絶賛したらしい。

本書『めざせイグ・ノーベル賞 傾向と対策』には、多数のイグノーベル受賞研究が紹介されている。

自分の「ヘソのゴマ」が青色であることを不思議に思って、ついに解明した話。水のかわりにシロップを入れたプールで「シロップのなかと水のなかではどちらが早く泳げるか」を実験した話。(これは意外な結果です)

おバカな研究が多いイグ・ノーベル賞だが、身近に役立つ(かもしれない)ものが少なくない。たとえば、空腹状態の男性はぽっちゃり女性を好む傾向がある科学的証明、しゃっくりを確実に止める画期的なライフハック、おいしいオタマジャクシの見分け方……など。われわれの予想をうらぎる研究とその実験結果に、なんども驚かされる1冊だ。

(文:忌川タツヤ)

めざせイグ・ノーベル賞 傾向と対策

著者:久我羅内(著)
出版社:CCCメディアハウス
「シロップの中は速く泳げるか」「フロントガラスに衝突した虫の収集」「ジッパーにペニスがはさまったら」「思春期における鼻くそほじりについて」「もしもバッタが『スター・ウォーズ』を見たら」…… ユニークな研究が目白押し。いまや本家のノーベル賞をもしのぐ?人気を誇るイグ・ノーベル賞。この賞が「本家」ともっとも違うのは、「だれでも自薦でノミネートできる」こと。 本書では過去の受賞研究を総まくり、同賞をこよなく愛する自称「イグ・ノーベル賞評論家」の著者が「傾向と対策」を伝授?します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事