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味方をつくるより、敵をつくらないことのススメ

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アジアやアフリカを旅していると、いきなり「トモダチ」と呼びかけられることがある。ナイーブな旅人だった頃、そう声をかけられると素直にうれしかった。こちらはトモダチになったつもりで案内してもらったりしていると、結局金目当てだったことがわかり、がっかりする。そんなくり返しだった。

ところが、下心で近づいてきたのは明らかなのに、こちらが本当に困っていたりすると、親身になって助けてくれたり、小銭を貸してくれたりすることもあるから「トモダチ」はわからない。このトモダチは敵なのか、味方なのか。旅をつづけていると、敵・味方、あるいは善・悪といった単純な二項対立では割り切れないことが、たくさん起きる。

「信頼」という名の独りよがり

日本の社会は「信頼」を重んじる、といわれる。そんな日本人がアフリカや中東のようなところへ行くと、人を信じられなくてノイローゼになることもある。「こんなに親切にしていたのに裏切られた」とか、「信頼していたのにだまされた」とか。

だが、「これだけやっているのだから相手もわかってくれるはず」というのは思い込みにすぎない。それは独りよがりな信頼の押しつけだ。相手が信頼できないというより、信頼のかたちがちがうのだ。

霊長類学者で、現京都大学総長である山極寿一さんはアフリカで長年マウンテンゴリラの研究をしてこられた方だ。その山極さんの『京大式 おもろい勉強法』(朝日新聞出版・刊)の中に、調査地での人間関係についてのエピソードが紹介されている。

味方をつくることは、敵をつくることでもある

いろんなことがスムースにいかないアフリカでの調査では地元の人たちの協力は不可欠だ。そこで地元民と仲良くなって人間関係を構築していく。そうやって人とのつながりを深めていくことで、困難を解決していく。しかし、それはかならずしも味方をつくることだけを意味しないという。むしろ「味方をつくることが自分の身を危険にさらすこともある」と山極さんはいう。なぜか?

「味方は私を親切に助けてくれますが、その人の敵をもセットでこちらが引き受けることになりかねません。〈味方をつくること=敵をつくること〉だということは頭に入れておいたほうがいいでしょう。・・・特定の人とばかり親しくなりすぎないように、でも、人から恨まれないように気を配りながら、敵をつくらないことが第一です」

「味方がいないということは、いろいろな人に近づいてきてもらえる・・・あえて味方をつくらないでいるということも、いろいろな可能性を保つうえでは重要なのです」

(『京大式 おもろい勉強法』より引用)

味方にたよりすぎると、その人がいなくなるとなにもできなくなったり、同調圧力が生まれて息苦しくなったり、異なる意見がいいにくくなったりする。山極さんがいうように、味方をつくるより、敵をつくらないほうが、ちがう異なる意見や価値観をもつ人との対話がしやすくなる。そうした対話の生まれる空間が、京都弁でいう「おもろい」なのだ。

「おもろい」は対話から生まれる

「おもろい」とは「対立して勝ち負けを競うのではなく、共同作業によって、さらに〈おもろい〉ことを提案していく」こと。それは敵味方や善悪をはっきりさせるという「対決」ではなく、自分が「おもろい」と思うことを、相手と共有し、さらに「おもろい」ことをめざしていくことだという。

そんなことをしていたら時間がかかる、と思われるかもしれない。そうなのだ。時間はかかるのだ。しかし山極さんはいう。「信頼とはほかでもない、時間なのだ」と。

「最初からいい人に来てもらったほうが効率的じゃないかと思うかもしれませんが、そのために防御壁を高くすると、いい人たちまで寄りつかなくなってしまいます。本当に性根のいい人たちは用心深くて、しかもわりと控えめだから、障壁を設けてしまうと近づいてきません。それに悪い連中を突っぱねたら、また他の悪いものがやってくるという悪循環が起こるだけ」

(『京大式 おもろい勉強法』より引用)

だから「悪い連中」とも時間をかけて、敵にせず、かといって味方になるわけでもない距離感でつきあっていく。なかなかむずかしいけれど、そうやって時間をかけていくうちに信頼が生まれ「おもろい」ところへ行けるのだ。

(文:田中真知)

京大式 おもろい勉強法

著者:山極寿一
出版社:朝日新聞出版
アフリカでゴリラ研究を重ね、総長の仕事は「猛獣使いだ」という人類学者の京大総長によるグローバル時代の発想術。考えさせて「自信」を持たせ、相手の立場に立って「信頼」を得て、他人と「共にいる」関係を築き、「分かち合って」食べ飲む――そんな「おもろい」自学自習の方法で人はぐんぐん伸びる。

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