織田信長も坂本龍馬も発達障害だった!?

「尾張の大うつけ」と呼ばれていた人物がいる。
名武将の織田信長だ。彼は袖なしの着物姿で、頭のマゲにはカラフルな布を巻いた格好で、野山を駆け回っていたという。さらには父親の葬儀で、位牌に灰を投げつけたという。民は呆れ、このような人物が殿の跡取りではどうしようもないと嘆いたという。しかしその後、彼は戦乱の世の中心人物となった。人々に「変わり者」というレッテルを貼られるような人物が日本や世界を変えたという例は、多いのではないだろうか。

 

カミングアウトする有名人

最近、自身の障害について有名人がカミングアウトする傾向が続いている。
モデルの栗原類さんと作家の市川拓司さんは発達障害であることをカミングアウトし、栗原さんは『発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由』(KADOKAWA・刊)、市川さんは『ぼくが発達障害だからできたこと』(朝日新聞出版・刊)という本を出版した。栗原さんは同級生からいじめられたというし、市川さんは学校の先生から煙たがられたという。

栗原さんはパリコレにも出られた存在感あるモデルさんだし、市川さんは『いま、会いにゆきます』を書かれた大ベストセラー作家さんだ。そんなおふたりが、いわゆる「普通」と違うということで非難を受けていただなんて、これは非難した世間こそが間違っていたのではないだろうか。

織田信長の件でも同様だ。「普通」と違うのは「個性」があるからである。それをどうして素晴らしいことだと受け止めることができない人が多いのだろう。

歴史を変える人々

『ぼくが発達障害だからできたこと』では、心療内科医の星野仁彦さんが素晴らしい解説を寄せている。織田信長や坂本龍馬は発達障害であったとされているというのだ。「一時的には周りと軋轢を生じて不適応を起こすように見えても、長い人類の歴史から見ればなくてはならない存在なのではないか」「特に戦国、幕末、ルネサンス期、革命期などの時代は、常識的な普通の人たちだけでは決して乗り切れないでしょう」とも記している。

発達障害の割合は人口の10パーセントと考えられているが、星野さんが「人類が滅びることがないように人口の10パーセント以上もの発達障害者を人類の中にあらかじめ備えておいたものとしか思えない」という理由は「普通の人では到底思いつきそうもない「発明・発見」をしたり、「ひらめき」を示したり、ひとつのことに異常なほどのめり込む「こだわり」があり「過去の因習にとらわれず積極的に新しい時代を切り開いていく」才覚を持っているからだという。つまり発達障害とされる人のひらめきこそが、歴史を変えてきたのかもしれない。

支える人・支えない人

『ぼくが発達障害だからできたこと』では、市川さんが幼い頃から感じていた普通の人との違いが丁寧に綴られている。市川さんが少し普通と違う自分を意識しつつも素晴らしい恋愛小説を書き上げることができたのは、学生の頃からずっと彼に寄り添ってきた奥様の存在も大きかっただろう。どんな時でも個性を認め、自分の味方になってくれる存在は、大きな支えになるからだ。

私の息子は数字にのめり込むあまり、小学1年の時に担任の先生から発達障害と疑われ、病院での検査を促された。投薬で普通に直しましょう、普通学級ではなく支援学級が合っているのではなどと言われ、息子は一時かなりの苦境に立たされたのだ。結果としては治療の必要なしと言われたのだけれど、あの時の忌み嫌うような教師や周囲の母親たちの顔が、今でも忘れられない。数字が好きで将来が楽しみだ、とのほほんと考えていた私にも、衝撃は大きかった。

そこに救いの手を差し伸べてくれたのは、当時の校長先生だった。息子が書いたすごい桁の帯分数を写真に撮り「てんさいくんを見つけたよ」と、息子の顔写真と共に、学校に貼り出してくださったのだ。のちに息子にくださったのだけれど、今でもそれは息子の大切な宝物だ。それ以降、担任からも母親たちからも苦情を言われることはなくなり、息子は堂々と普通学級に通うことができ、今では、国立大学で数学を専門に学んでいる。

新しい時代のために

日本には、変わった子どもを、追い払おうとしたり、「普通」にしようと躍起になる人がいる。
特に彼らに何かされたわけでもないのに、行動がよく理解できないなどという理由で、逃げ腰になる人がいるけれど、果たしてそれは正しい行動だろうか。今までの歴史でも「そんなことはできるわけない」と人々が驚愕するようなことを信長や龍馬はやってのけ、新しい世の中を果敢に創り出していった。

今まで誰も思いつかなかったかのようなひらめき、ひとつのことにのめり込み、考え抜くという能力を持つ発達障害の人は多いという。いつでも皆と同じことを、足並み揃えて行っていたら、社会は何も変わらない。変える度胸を持っている人たちへの尊敬の気持ちを私たちは忘れないようにしたい。そうすれば市川さんや栗原さんがずっと感じてきた「生きづらさ」も、少しは薄れるのではないだろうか。

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