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人間にはハンディキャップを乗り越える力がある

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4年に一度のスポーツの祭典、オリンピック。2016年にはリオデジャネイロで開催された。数々の名シーンが生まれたことは、記憶に新しい。

また、オリンピックに引き続き開催されたパラリンピックも見応えがあった。運動機能や視覚などにハンディキャップを持つ人だけが出場できるパラリンピック。近年は注目が集まり、オリンピックと同様に世界的に盛り上がっていると感じる。

ハンディを補って余りある身体能力

パラリンピックを見ていると、健常者より運動能力が高い人がたくさんいたりする。片足がないスプリンターが、とてもかっこよくて機能的な義足を付けて高記録を出していたりするのを見ると、もちろん本人の努力があってこそのものではあるが、人間って限界がないのかとさえ思ってしまう。

パラリンピックに出場している選手たちはもちろんだが、そうではないハンディキャップを持った人たちも、それを補って余りある能力を発揮していることが多いと感じる。腕が不自由な人が、足で字を書いたりものを取ったりしたり、盲目の人が高い音楽的センスを発揮したり、そんな例はたくさんある。

色彩を失った画家

火星の人類学者』(オリヴァー・サックス・著、吉田利子・訳/早川書房・刊)は、神経学者であるサックス博士がさまざまな患者たちとふれあい、観察して記したエッセイだ。その冒頭にこう書かれている。

欠陥や障害、疾病は、潜在的な力を引き出して発展、進化させ、それがなければ見られなかった、それどころか想像もできなかった新たな生命のかたちを生みだすという逆説的な役割を果たすことができるのである。

(『火星の人類学者』より引用)

自閉症の人が驚異的な記憶力を発揮したり、目の見えない音楽家などはその一例。ハンディを補って余りある才能が引き出されるということは、往々にしてあるようだ。

本書で、事故で色覚を失なった画家の話が出てくる。その画家は、色彩を失ったことに絶望していたが、白と黒で絵を描くようになる。これまでとはまったく違う画風を手に入れたのだ。

色覚を失ったことで、光線の具合による物体の見え方に敏感になった。そして、色そのものへの関心が薄れ、夜間の視力が上がったようだ。簡単に言えば、“視覚が研ぎ澄まされた”のだ。夜は白と黒の世界。彼にとっては、一番過ごしやすい時間帯が夜になり、夜をメインに生活することで、新しい人生が始まった。

火星の人類学者って何?

タイトルにもなっている「火星の人類学者」の章に出てくるのは、自閉症の40代の女性のことだ。

彼女は、自閉症にもかかわらず、動物学で博士号を取り、コロラド州立大学で教え、事業を経営している。

(『火星の人類学者』より引用)

彼女は、赤ん坊のころから普通の子供とは違った行動を取っていた。しかし、自閉症児の多くがそうであるように、驚異的な集中力を発揮し、心理学と動物行動学に興味を持ったそうだ。

さらに彼女のなかの視覚的、工学的部分に結びついて、専攻分野が決まっていったかを語った。専攻分野とは農場、飼養場、家畜用囲い、食肉プラントの設計など、さまざまな種類の動物管理システムである。

(『火星の人類学者』より引用)

彼女は昔から視覚能力が優れており、その優れた視覚能力で牧場で動物を観察していたら、動物の気持ちがわかるようになったということ。それが現在の仕事に繋がっている。

彼女は、家畜がどんな気持ちなのか、それが手に取るようにわかる。一方で、人間の心の機微はあまりわからないという。火星の人類学者のような気分なのだと語っている。

アンバランスではあるが、やはり突出した才能が開花している。僕なんかが一生かかって勉強しても、手に入れられないだろう。

何が起きてもポジティブにいられるようにしておきたい

ある日突然自分が他者とは違っていることに気づいたら、僕はどうするだろうか。

今の僕は、別に他人と自分を比べてどうこう思ったりするような人間ではないが、それでもやはり戸惑ってしまうことだろう。とても悩んでしまうかもしれない。

でも、それまでとは違う世界が開け、新しい何かが生まれるという可能性も多分にある。何か起きても、ポジティブな気持ちでいられるようにはしておこうと思う。

(文:三浦一紀)

火星の人類学者

著者:オリヴァー・サックス(著)、 吉田利子(訳)
出版社:早川書房
全色覚異常の天才画家、激しいチックを起こしながら巧みに執刀するトゥレット症候群の外科医、みずからを「火星の人類学者」と感じる自閉症の動物学者……『レナードの朝』で世界中を感動させたサックス博士が、患者たちの驚くべき世界を温かい筆致で報告し、全米ベストセラーとなった医学エッセイの最高傑作。

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