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地図を作る人がとにかく欲しがる「ピンク情報」とは?

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手元のスマートフォンでサクサク使えるようになった地図、
カーナビに目的地を登録さえすればスイスイ誘導してくれる地図、
でも住宅地図を作るために、1日1000人もの人がヘトヘトになりながら歩き回っていることを知る人は少ない。

1つの区が384ページにもなる住宅地図

書店などで売られている都市地図は縮尺が1万分の1程度であることがほとんどだが、ゼンリンが作る住宅地図の縮尺は1500分の1に統一されている。縮尺が詳しければ、当然ながら相当な頁数に膨れ上がる。世田谷区の住宅地図は地図ページが384ページ、別記リストページが118ページにのぼるという。この詳細な住宅地図が、印刷された地図はもとより、ネットやカーナビの地図の基礎データとして重要な役割を果たしていく。

住宅地図は、住居に表札が掲げてあればその氏名を記載している。住宅地図は、都市部では毎年、その他の地区でも2年〜5年ごとに調査し、データを更新する。転居や建物の取り壊しや新設、変わっていく街の地図をどのように効率よく作っているのだろうか。いや、効率よく、ではない。とにかく超アナログなのだ。全国70カ所に拠点を設け、休日を除く年間280日、1日約1000人があちこちを歩き回って、あらゆる項目を調べているのだ。

ますます重要になる「ピンク情報」って?

調査員がチェックする内容は気が遠くなる量の多さだ。
「表札」「ポストに書かれている居住者の氏名」「家形」「塀」「店名・事業所名称」「建物名」「車道」「歩行の有無」「交差点名」「バス停名」「駅や鉄道線路の状況」……家屋の建て替え程度ならばグーグルアースなどでも確認できそうだが、ここまでのコンテンツ量は、やっぱり一軒一軒訪ねなければ分からない。山間部を除けば、調査員はどこまでも歩き、調査図面は紙の地図のみ、その場で何がしかの電子機器の世話になることはせず、ボールペンと色鉛筆のみで記録していく。

調査員が欲しがるのが「ピンク情報」。新規開店の風俗店情報……ではなく、調査員がピンクのボールペンを図面に引くことから名付けられた、とある情報のこと。カーナビに地図を提供しているゼンリンでは、年々この「ピンク情報」が重要度を高めている。
ある建物が四方とも道路に面している場合、建物のどこに入口があるのかを確認する必要がある。建物に近付いたところでそこに入口が無ければ意味が成さないカーナビにとっては、入口の位置はとても重要な情報になる。既存の住宅地図に明記されている入口と異なる場合に、ピンクの線で修正する、これが「ピンク情報」。

住宅地図に誤って記載されそうになったペットの名前

全てを徒歩でこなすため、調査中の場所からわざわざ食事処のある場所まで戻る余裕はない。なので、調査ルートを決める時には、真っ先に「入れる所」と「出す所」を確保するという。つまり、入れる所=お弁当を食べる所と、出す所=お手洗いの場所だ。前者の場所として重宝されるのが神社、後者の場所として頼りになるのはガソリンスタンドだという。

調べやすい時間帯も、その土地によって違う。漁師町ならば、明け方から昼過ぎまで仕事をして、夕方には晩酌をして寝る生活をしている場合が少なくない。こういった生活体系の町に午前中に調査をしても誰も協力してくれないし、不審がられてしまう。漁師町なら夕方前くらいが狙い目となる。歓楽街は午前中にビルのテナントを確認して歩くのだが、そもそも稼動している店なのかどうかを見極めるのが難しいという。一般の住宅にしても、「綾小路ラム」という表札を確認し調査図面に書き込んできたケース、もう一度確認に行かせたらペットの犬の名前だったというから一筋縄にはいかない。

今日もまた、調査員が歩き回っている

小さな島が並ぶトカラ列島では、7人1組になって「トカラ航路」に出かけていく。一つずつの島を調べながら、何日もかけて、島々の調査を続けるのだ。なんだか、未開の地を行く探検隊のごとし。内田宗治『ゼンリン 住宅地図と最新ネット地図の秘密』にはこれらのエピソードがふんだんにつまっている。何よりも超アナログな姿勢が超ハイテクを支えているという地図作りの構図が面白い。私たちが便利とすら思わなくなるほど生活に馴染んだデジタル地図を最新のものに更新するために、今日もまた、神社で弁当を食べ、ガソリンスタンドでトイレを借りる調査員が、日本中を歩き回っているのである。

(文:武田砂鉄)

ゼンリン 住宅地図と最新ネット地図の秘密

著者:内田宗治
出版社:実業之日本社
居住者の名前や会社名が書かれた詳細な住宅地図を出版するゼンリン。その調査は、北海道から沖縄まで、離島も含めて調査員が歩いて行っている。他方、カーナビ地図やネット地図でもシェアナンバーワン。本書は、「住宅地図」「ネット地図」という、今まで地図に関する本ではあまり採り上げられなかった種類の地図に迫るとともに、住宅地図ならではの「地図的なおもしろさ」を探求する。また、住宅地図が「社会的インフラ」であることが証明された、東日本大震災での対応もレポート。このビッグデータの時代に、ゼンリンが拡大する「地図」の概念にも密着し、自動車メーカーがしのぎを削っている印象のADAS(先進運転支援システム)は、実は驚くほど緻密な地図データに支えられている。歩いて調べる超アナログの住宅地図とスマホの最新ネット地図をつなぐゼンリン。実地調査と最先端の機会が作る地図の未来とは!? 地図の新たな地平が見えてくる本だ。

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