パリジャンもパリジェンヌも清少納言の『枕草子』がお好き

一家揃って愛読書は『Notes de chevet』(枕草子)というフランス人家族がいる。
父親はフランス語の教授、母親はフランスの大企業の顧問弁護士、そして彼らの3人の子どもたちも、揃って日本文化をこよなく愛しているが、5人が5人とも清少納言の大ファンで「とくに、枕草子の自然描写がたいへん美しい!」とべた褒めなのだ。
私たち日本人はその原文は古語辞典や解説書がないと読めないが、フランス人はフランス語訳ならスラスラと読める。だからだろうか、パリの大型書店には『枕草子』は必ず置いてあり、手に取るパリジャン、パリジェンヌはとても多い。
『枕草子』で日本語の勉強を
一家の末娘エメリーヌはうちの娘とは幼稚園時代からの幼なじみ。
で、日本人の娘が日仏のバイリンガルになったので、彼らとしてもエメリーヌに日本語を学ばせたいということになった。バカロレア(大学入学資格試験)に受かり、パリの大学生になったエメリーヌは、最初はパリ市内の日本語学校に通った。が、日本語初心者コースの授業がつまらないから、と、この私に「『枕草子』を使って日本語を教えてほしい」と言ってきたのだ。
そのとき、私は心の中で叫んだ(無理だよ! 枕草子は春はあけぼの……のワンフレーズしか知らないし)と。
しかし、一家揃って「そうだそうだ、せっかく日本人のユウコがいるんだから、ここで日本語を覚えつつ、枕草子をさらに深く学ぶべきだ」などと口々に言い出してしまい、私は日本人として「枕草子をよく知らない」とは言えなくなってしまったのだ。
かくして毎週日曜日にわが家にやってくるエメリーヌのために、月曜から土曜までは、原文、現代語訳、そしてフランス語訳を並べて猛勉強の日々を送ることとなった。
でも、それにより清少納言のモノを見る目の鋭さや、感受性の豊かさを知る機会にもなり、なぜ、フランス人がこれほど『枕草子』を愛するのかが、なんとなく理解できるようになった。
「いとをかし」がお気に入り
エメリーヌが頻繁に使うようになったのは原文によく出てくる「……いとをかし」だった。
おもしろいとか趣があると感じると彼女は「いとをかし」を連発した。だから先に言っておいた。「今の日本では、いとをかし、なんて表現する人はいないからね」と。
またエメリーヌはことごとく「なぜ?」と「それってどんなもの?」を繰り返した。なんで平安時代は馬車ではなく牛車だったのか? 十二単の着物ってどういうの? あるいは宮中の様子や、植物などなど。フランス語訳本には挿絵はひとつもないので、それらを絵で見たがったのだ。質問が出るたびに、ネットで検索して、よく画像を探したものだ。
まんが『枕草子』があれば
あの頃、この本があればどんなに助かったかと思い、また次にフランスの彼ら一家を訪ねたら、ぜひ見せてあげたいと思っているのが、『まんがで読む 枕草子』(学研教育出版・編、中島和歌子・監修/学研プラス・刊)だ。
清少納言は平安時代の中期、歌人として高名であった清原元輔の娘として生まれ、その教養を買われて28歳のとき宮中に入り、中宮(天皇の妻)、定子の女房(侍女)として仕えた。そして宮中の暮らしの中で、見聞きしたことや感動したことを、清少納言は自分の言葉で書きとめ、やがてそれは『枕草子』として人から人へと伝わって読まれるようになっていった。
300あまりの章段に区切ることができ、類聚的章段(同じ種類の物事を集めること)、日記的章段(清少納言が体験した出来事や聞いた話などを書いたもの)、随想的章段(自然や世間についての意見や感想)という三種類に分けることができるという。
本書では、日記的章段をストーリーまんがに、類聚的章段、随想的章段を4コマまんがにしてあり、
『枕草子』のすべてが、わかりやすい構成になっている。
また、平安貴族の正装、宮中の見取り図なども解説付きで紹介されて、かつて私がエメリーヌからリクエストされた”絵”はすべて載っている。
あてなるもの
『枕草子』でエメリーヌのいちばんのお気に入りは、40段の「あてなるもの」だった。上品なもの優美なものという意味で、清少納言は、少女が薄紫色の着物の上に白い上着を着た姿、かもの卵、甘い汁をかけたかき氷、水晶の数珠、藤の花、雪のかかった梅の花、いちごを食べる幼い子をあげている。
本書でも類聚的章段とて4コマまんがで紹介されていて、その解説として、
清少納言が色に敏感であったことがよくわかります。「いちごと幼い子のはだ」は赤と白の組み合わせです。紅梅と雪なら、同じになります
(『まんがで読む 枕草子』から引用)
とある。
まんが好きのフランス人たちにもすすめたい
原文のままではわかりにくい日本の古典だけれど、まんがになると子どもから大人まで、すんなりと楽しめる。清少納言という約千年も前に生きた女性が、まんがだからこそ鮮やかによみがえり、親しみもわいてくる。
フランス人にはまんが好きが多く、また、日本のまんがを文化として認めていているので、大型書店ではMANGAコーナーが驚くほど広い。もし、この『枕草子』がそこに並べば、きっと大うけするに違いない。
(文:沼口祐子)


まんがで読む 枕草子
著者:学研教育出版(編) 中島和歌子(監修)
出版社:学研プラス
古典の定番・随筆「枕草子」を、教科書に載っている内容を中心にまんが化。宮中で清少納言の生活、感じたことから、平安時代の貴族の暮らしやものの考え方を知ることができる。コラムも充実。初めて「枕草子」を読む人でもすらすらと読め、古典入門に最適。
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