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戦時中にゾウだけではなく、犬も猫も犠牲となった

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『かわいそうなぞう』という哀しい絵本がある。
戦時中、上野動物園では動物を毒殺しなくてはならなくなった。万一に備えての命令が下ったからである。しかし賢いゾウは、毒入りのエサを食べないため、しかたなく餓死させることとなった。ゾウは衰弱した体で芸をして、エサを必死にねだった。これは、動物園の動物達だけに起こった話かと思ったら、違った。家庭で飼われていた犬や猫も、戦争の犠牲になっていたのだ。

ペットを供出する理由

山梨県にある私の実家には、取っ手がない古いタンスがある。取っ手は戦時中に「供出」したのだという。兵器の材料が足りないということで、金属類を各家庭が差し出した。大きなノミのようなもので荒々しく削られた跡が付いているそのタンスは、とても開けづらかった。この供出、地域によっては犬や猫に対しても、命令が下ったことがわかってきた。

なぜ大切なペットを殺さなくてはならなかったのか。

犬やねこが消えた 戦争で命をうばわれた動物たちの物語』(井上こみち・著/学研プラス・刊)はその残酷な光景を体験者達に取材し、児童にもわかりやすく説明している貴重な本である。
本によれば犬や猫に供出命令が下された理由は幾つかあった。まず、空襲などの時に興奮して他の人に危害を及ぼす危険、それから狂犬病の根絶のため、また、人間でさえも食べるのに難儀しているのだから、ペットまで食べさせる余裕がなかったという事情もある。さらに、これは心底驚いたのだけど、毛皮の調達のためだった。戦地に向かった兵隊の寒さをしのぐために、犬や猫は殺され、皮を剥がされたのだ。

犠牲になるもの

本では、実際に犬の毛皮が使われた防寒具も発見し、犬猫の供出が事実であったことを裏付けていた。農耕に使われていた馬も、軍用での供出を命じられ、海外の戦地などに送られたという。犬の中には捜索などに役立てるため、戦地に送られたものもいるという。「無事に帰国できた軍用犬や軍馬はいなかったと言います。戦後、外地からの引き揚げ船には、一頭の犬の姿もなかったそうです」とあるので、馬や犬の運命を思うと本当にやるせない。

戦争では、弱く小さなもの達が犠牲になっていく。防空壕で泣き出した赤ちゃんに対し、敵軍に見つかってしまう、殺してしまえと厳しく迫った人が何人もいたという。実際に赤ん坊の命が奪われたこともあったという。犬や猫も、そして赤ん坊も、いったい今何が起きているのか理解できないまま戦時中を過ごしていたに違いない。それなのに命を失っただなんて、かわいそうすぎて言葉も出ない。

現代と数を比較する

昭和19年、北海道では犬皮が1万5000枚、猫皮が4万5000枚集まったという。北海道だけで合計6万もの小さな命が失われていたのだ。現代に目線を移し、平成27年度の殺処分頭数を見ると、北海道は犬が90匹、猫が1301匹と比べ物にならないくらい少ない(全国合計だと犬が1万5811匹、猫が6万7091匹である(環境庁調べ))。

ペットの毛皮まで差し出さなくてはならないほどに物資難だった当時。その頃、犬も猫も人間と同じようにいつもお腹を空かせていたに違いない。そんな中、供出の日は、たっぷりとご飯を食べさせて送りだす飼い主達の姿があった。それが、せめてものお詫びだったからなのだろう。

非常時の生きざま

私は先日、とある数字を目にした。
昭和20年に山梨でワインが驚くほど大量に、例年の何倍もの量の生産をされていた、というものだ。それは人々が飲むためではなかった。ワインの製造過程でできるロッシェル塩が、潜水艦などに搭載する水中聴音機の部品になるからだという。お国のために、普段はブドウ畑でなかったところでもブドウを作らせたのではないだろうか。

終戦直前の追い詰められた状況下で、「戦いに勝つためには、もうこうするしかないのだ」、という祈りにも似た切羽詰まった思いで日本中が突っ走っていたのかもしれない。「(戦時下は)いったん走り出したら誰にも止められない恐ろしい力がはたらいてしまう」と本にも書かれてあった。突然、犬や猫の姿が街から消えたその日、人々はどれだけ辛かったことだろう。本を読み終えた後街に出て、ゆったりと散歩する犬と飼い主を見つけた時、この光景がいつまでも続くようにと願わずにはいられなかった。

(文・内藤みか)

犬やねこが消えた 戦争で命をうばわれた動物たちの物語

著者:井上こみち
出版社:学研プラス
戦争では、多くの犬や猫も犠牲になった。愛するペットを殺されるとわかっていて差し出さなければならなかった人々の悲しみは、今も胸に深く刻まれている。著者はその記憶をたどりながら、戦争という狂気の時代がどんなものだったのかをつきとめていく。

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