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気の利いた返し言葉を養うためのマインドとは

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この頃、ちょっとした時間があるとYouTubeの動画に見入ってしまう。
特に気に入っているのが〝キレる〟シリーズ。電車とかバスの中、あるいはコンビニやファーストフードの店頭でキレまくっている人たちを集めたやつだ。

なんちゃっておじさん

電車でキレまくる人たちの動画を見ていて、とある昭和の都市伝説を思い出した。こんな話だ。

山手線で目の前に50歳くらいのおじさんが座っていた。
そのおじさん、女子校生とか子どもにつまらないギャグ言って、自分でケラケラ笑ってる。
乗客たちもそろそろしつこいなと思い始めた頃、見るからにその筋の人が近寄ってきて、「うるせえ、いい加減にしろ」ってどなった。
おじさんは一瞬きょとんとして、次に目をうるうるさせて、「えーん、えーん」って子供みたいに大声で泣き始めた。

今度はどなった方がびっくりして、さらに大声で脅したり、なだめたりして黙らせようとしたけど、おじさんは泣き止まない。

どなった男はその場にいにくくなって巣鴨で降りたんだけど、おじさんは顔に当ててた手の指の隙間からそれを確認して、ドアが閉まった瞬間に「なーんちゃって!」って言って、別の車両に移っていった。
みんな最初びっくりして、その後大爆笑。

まあ、都市伝説だから当たり前だが、西武線でも小田急線でも京王線でも、そして中央線でも同じおじさんの目撃情報が伝えられていた。怒鳴られる→泣く→相手が引く→「なーんちゃって」でオチをつけて去っていく。こういうシステマティックでドラマティックな返しを意図的にできたら、かなりの打感が残るだろう。

自転車おじいさんVS指導員

おととい、家の近くの商店街で、自転車に乗ったおじいさんvs.自転車指導員(2人)のバトルを見た。おじいさんの自転車の乗り方が悪くて、指導員が何か言ったらしい。それほど近くなかったので何を言ったのかは聞こえなかったが、そのひと言が、ペダルを踏み外してコケるほどにおじいさんを激高させたようだ。

すれちがいざま、「こっちはコケてるんだよ!」というおじいさんのイキりまくった言葉が響いた。自転車指導員は、笑いをかみ殺す感じで謝りながら、丁寧な言葉を繰り返していた。その笑いをかみ殺した感じと、冷静な口調がさらにおじいさんを激高させる。

何を言えばよかったのか、正解はわからない。でも、指導員2人の〝返し〟がまずかったことは容易に想像できる。

毒をもって毒を制すのか

上記の商店街ほど切迫した場面でなくても、意図的に毒が込められた言葉や、明らかにバカげた言葉を向けられた時、攻撃力が高いひと言を返したいと思うことがある。そんなシチュエーションで役立つかもしれないのが、 『吉本流切り返し術 ああ言えば、こう言う!』 (大谷由里子・著/朝日新聞出版・刊)だ。

著者の大谷由里子さんは吉本興業の元マネージャーさん。肩書きだけで期待できる。企画の立脚点を見ておこう。

世の中には、人が気にしていることや、言われたくない言葉をズケズケ言ってくる人もたくさんいる。言っている方は、悪気がないかもしれないけれど、言われる方は結構傷付く。

『吉本流切り返し術 ああ言えば、こう言う!』より引用

被害妄想的に聞こえるかもしれないが、筆者は、悪気がまったくないままズケズケ言ってくるやつなんて世の中にいないと思う。それは、悪意をがさつさでコーティングしているだけにすぎない。だからそういう奴に対しては、こっちも大人なふりをしながら、ダメージが大きいひと言を繰り出してやる。

「ついてない」と言うのはやめよう

と言いつつも、一番響いたのは次のくだり。

「ついてない」
この言葉は絶対に禁句。
この言葉を使っていると、本当に人生がつかなくなる。わたしも、わたしの仲間もその言葉をよく言う人の周囲には近づかないようにしている。だって、絶対に「ツキのなさは」はうつる。

『吉本流切り返し術 ああ言えば、こう言う!』より引用

こういうネガティブな言葉には、この返し。

「『ついていない』と言う前に、何か人生が『つく』ような行動を取ったの?」と突っ込みを入れる。

『吉本流切り返し術 ああ言えばこう言う!』より引用

吉本の元マネージャーさんが書いた本というと、言い倒して相手を黙らせる、みたいなイメージが先行すると思う。実際筆者もそうだった。

ところが、この本全体を通してのテーマは、〝アサーティブネス〟だと感じた。英和辞典の第一義は〝自己主張すること〟だが、もっと噛みくだいた言い方をするなら〝自分という存在について、自分のものの見方考え方について理性的な言葉遣いで伝え、相手に納得してもらうこと〟というニュアンスになるだろう。

「ああ言えばこう言う」というのは、売り言葉に買い言葉みたいな表面的な対決構造でもなく、毒をもって毒を制することでもない。その行いの本質は、アサーティブネスなのだ。

(文:宇佐和通)

吉本流切り返し術 ああ言えば、こう言う!

著者:大谷由里子
出版社:朝日新聞出版
「何がやりたいの?」と言われたら、「そんなことすぐに分かったら苦労しませんよ」と切り返す。「前例がない」と言われたら、「今までがダメだったんだから、同じことをしても仕方ないですよ」と切り返す。日常生活で投げかけられる嫌な言葉や傷つく言葉に対して、どう切り返せば気持ちよく、人間関係も円滑にできるのか? 元吉本興業女マネージャーによる、ユーモアと皮肉たっぷりのエッセイ。

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