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一生モノの言葉は嘘ではなかった!

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「一生モノ」という言葉に弱い。とても弱い。
特に、若い頃は、「そんなことあるわけがない、だまされてはいかん」と、自分をいさめつつも、気づいたときは、せっせと貯めたアルバイト代をぶちこんで、「一生モノ」の品を買っていた。
若さとはそういうものかもしれないが、バカだった。
それも、たいして好きでもないものを買っていたように思う。


たとえば、エスカルゴスカート、オポッサムの毛皮のコート、胸にリボンのタイがついたワンピース等々・・・。
そのときは興奮して手に入れたはずだが、あまり似合わず、やがて飽きて、断捨離を待つまでもなく、どこかにいってしまった。
いつどうやって捨てたのかさえ、覚えていない。

一生モノだったはずのエスカルゴスカート

あぁ、今も思い出す、エスカルゴ・スカート。それも革製の・・・。
カタツムリの殻のように、螺旋状の切り替えを繰り返したデザインのスカートを私は「一生モノだから」と、勧められ、購入した。
しかし、あまり着ないまま、「いつか着よう。まだまだ大丈夫。だって一生モノだもの」と、思いながら、クロゼットに眠らせておいた。
よく考えてみると、体のサイズは変化するのだから、一生、着ることなどできるはずもないのに、「たとえ高価でも、一生、着れば安いもんだ」という意味のない計算をしていた。
今、思い出すと、チクリと胸が痛む。

私の愛用する品々

もっとも、一生とは言わないが、半生近く愛用しているものもある。私はおそろしく物持ちがいいのだ。
たとえば、今も毎朝、老眼鏡代わりに新聞を読むときに使っている虫眼鏡は、小学校2年生のとき、買ってもらったものだ。その証拠に2の3と書いてある。もう忘れていたが、私は2年3組だったらしい。
ハンカチも小学生のときに使っていたものがたくさんあるし、フライ返しは、結婚したとき、夫が下宿で使っていたものだ。取っ手のところがガス火にあたって溶けてしまい、気持ち悪い状態になっている。
「いいかげんに捨てれば?」と、言われるが、「まだ使える」と、使い続けて37年。当分、手離す気はない。
結局のところ、一生モノと思わずに手にした物が、実は一生モノとなっている。

逸品について考えた

最近、本当の「一生モノ」とは何かを考え続けているのだが、『イギリス流と日本流 こだわり工房からの贈り物』(井形慶子・著/朝日新聞出版)という本に出会い、「あ、なるほど」と、思っているところだ。
イギリスには一生モノどころか、おばあちゃんの代から着ているなどという、いわば「3代モノ」のセーターなども存在するのだから、学ぶべきことは多い。
そういえば、イギリスのチャールズ皇太子は、物を大切に長きにわたって使うことで知られている。
セーターはもちろん、靴もつぎを当てて、40年近くはき続けるというのだから驚きだが、イギリスの皇太子である。

大事なのは信念を持ったものづくり

著者は大学在学中からインテリア雑誌の編集に参加し、28歳の若さで出版社を起こした方だ。
100回を超える渡英経験を持ち、数多くのイギリスに関する著書を出版している。
そんな彼女が到達した一生モノの世界、それが『イギリス流と日本流 こだわり工房からの贈り物』だ。

日本とイギリスという文化も生活習慣もまったく違う2つの国で、小さな工房を訪ね歩くうち、信念を持ってものづくりをする人たちが、いつしか私のなかでひとつの輪となり、つながりました

(『イギリス流と日本流 こだわり工房からの贈り物』より抜粋)

若い頃、エスカルゴスカートを買ってはすぐに似合わないとクロゼットに放り込んだ私にとって、耳が痛い言葉だ。
そうなのだ。エスカルゴスカートには何の罪もなかったのだ。
信念をもったものづくりに対する敬意が足りなかったから、私は本物を見抜くことができなかったに違いない。
その証拠に、両親が考えた末に買ってくれたものは、今も「一生モノ」として、毎日、使っているではないか!
あぁ、面目ない。

20年物のセーター

20年ほど前、私は一人でイギリスに取材に出かけた。
行っている間中、心細く、家族に会いたくてたまらなかった。もう帰ってしまおうかとさえ思いながら旅を続けたが、ロンドンからバスで出かけたケンブリッジの町で、「もうこれは辛抱ならん」という状態に陥った。心身共に、寒くて寒くてたまらなくなったのだ。
そこで、通りかかったお店に飛び込み、セーターを買うことにした。 手編みのセーターばかりを取り扱ったお店で、私には高価だった。
「もったいないかな」と迷う私に、お店のマダムは言った。「あなたの娘さんの代まで着ることができると保証するわ」と。
その言葉に嘘はなかった。
あれから20年。私は毎冬、そのセーターを着続けているが、びくともしない。すごい。

こだわりの品々にこめられた愛

この『イギリス流と日本流 こだわり工房からの贈り物』で取り上げられた商品は12品。
手編みのニットや木靴、レースのインナーがあるかと思えば、アイリッシュリネンのシーツなど。
日本からは、目薬や帆布トート、そして、唯一無二の傘。
いずれも、丁寧な仕事ぶりの品々ばかりである。
どの商品にも、詳しい解説とお店の場所が記されているので、欲しいと思う品があったら、直接、出向くのもいいし、ホームページにアクセスしてみるのも楽しい。
これからの人生、私も私の「一生モノ」に出会うことができるように願いながら、失敗と研究を繰り返したいと思っている。

(文・三浦暁子)

一生モノの言葉は嘘ではなかった!

著者:井形慶子
出版社:朝日新聞出版
イギリス生活を書いてベストセラー多数の著者による人気のテーマ「イギリス流暮らし方提案」の一冊。ファッション、インテリアほかホンモノの良さを知るモノ作りのルポと日本で見つけたイギリス流職人仕事。職人のていねいなモノ作りに見るその土地の伝統文化、思い入れなど。アイリッシュ・リネン、ウールの手編みのセーター、コットンのインナーほかこだわりぬいた上質の日英の職人仕事を紹介する。

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