ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

アメリカには、DV専門の裁判所がある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

夫に暴力を振るわれ実家に避難した女性が離婚調停を起こそうとする場合、実は裁判所で怖い思いをする可能性がある。
調停の日には裁判所に出向かなくてはならないのだけれど、DV加害者である夫もほぼ同時刻に裁判所から呼び出されている。

つまり遭遇の危険があるのだ。

そして入り口に刃物チェッカーがない裁判所もある(東京家裁はある)。つまり刃物を裁判所に持ち込んだ夫に、狙われる可能性は、ゼロではない。離婚するにも命がけなのだ。

裁判所にはスリルがいっぱい

調停では家庭裁判所は待合室はもちろん別々にしてくれるし、DV被害があると話せば調停室で顔を合わせることもない。
けれど、調停後は、裁判所の出口まで誰も見送ってはくれない。一人で人気のない廊下を歩いたり、エレベーターを利用する場合もある。裁判所に入る際に、入口で待ち伏せされるリスクもある。実際、裁判所前で待ち伏せし、現れた元妻に切りつけた男性もいた。幸いにも命に別条はなかったそうだけれど、同日同時刻に集合して、今までよく大きな事件が起きなかったものだなと個人的には思う。

DVへの取り組みが進んでいるアメリカでは、なんとDV専門の裁判所がある。
専門の裁判所を必要とするほどに、DVに関する調停や裁判が数多く行われているということなのだろう。
アメリカでは年間130万もの人がDVの被害に遭っているという。日本は6万3千件(2015年警察庁発表)。アメリカのほうが人口が2倍以上多いとはいえ、随分な差がある(訴えられていないだけで、実際の被害者はもっと多いのだろうけれど)。

専門裁判所の手厚さ

『DV あなた自身を抱きしめて』(山口のり子・著/梨の木舎・刊)では、シカゴのDV専門裁判所を著者が実際に訪れ取材している。
そこには裁判のサポートをしてくれるグループがいるという。
裁判所内でDV被害者に付き添ってくれたり、治療費を弁償してもらえる犯罪被害者補償の申請にも手を貸してくれる。子連れの被害者には所内に託児サポートもあるし、タクシーやバスの無料乗車券ももらえるという。
日本では子どもを預ける費用、避難先から裁判所に向かう交通費(遠方の場合はかなりの額)も、DV被害者の自腹だ。傷の治療費も自腹という人が多いのではないだろうか。

DV専門裁判所の素晴らしさはそれだけではない。
DVへの対応を熟知している裁判官が、加害者への働きかけもしてくれるのだ。
保護命令はもちろんのこと、加害者更生プログラムへの参加も義務付けてくれる。加害者がプログラムに出席しなかった場合は刑務所に入ることになるという。いくら被害者が逃げ回っても、加害者が態度を改めなければ暴力は繰り返されるのだから、素晴らしいシステムだ。

夫を訴えるということ

とはいえDVの被害を受けた妻が夫を訴える話を、日本ではあまり聞かない。裁判所に申し立てるとしても、離婚の調停であるケースが多い気がする。これはなぜかというと、訴えようとすると「ご主人が犯罪者になるかもしれませんが、それでもよろしいですか」と警察や弁護士などから念を押されることがあるからかもしれない。「身内が逮捕されるかもしれません」と言われ、そこでひるまない人はいないだろう。

なぜなら夫婦の財布はひとつ。夫が逮捕されて万が一職を失えば、たちまち妻にも影響が及んでしまう。離婚できたとしても養育費をもらえるかわからないような状況に陥るかもしれないのだ。今後の生活を考えると夫を訴えるということは難しい。けれど、離婚はしたい。弁護士による調停の代理出席を認めてもらえる場合もあり、それなら怖い思いをしなくてもいいのだけれど、予算がないのなら、単独で、命がけの思いで裁判所に向かわなくてはならないのだ。

ちなみにこの本は2001年に刊行されたものである。15年の時が過ぎたというのに、日本の現状はどうだろうか。

先日も、こんな事件があった。
以前の交際相手に暴力を振るわれた女性が警察に相談した際、避難を勧められたが「引っ越すお金がない」と訴えた後、血痕を残して行方不明になってしまったのだ。ホテルなどに避難する際は宿泊費が補助される制度もあったのに、警察はそれを伝えなかったという。日本でも手厚いサポートが受けられる日が来ることを、願うばかりだ。

(文・内藤みか)

DV あなた自身を抱きしめて

著者:山口のり子
出版社:梨の木舎
日本でも漸く社会的に認識され始めた、パートナー間の暴力=ドメスティック・バイオレンス(DV)について、既に25年以上の実績があるアメリカでの被害者・加害者双方のためのサポートプログラムの事例を紹介する。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事