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難攻不落の麺メニュー。月見うどんが倒せない

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生卵をのせた熱いうどん。その名は、月見うどん。黄身を「満月」に見立てた風流な食べものです。

月見うどんは手軽に作れます。自宅でうどんでも食べようと思ったとき、生卵1個さえあれば一丁上がりです。

しかし、月見うどんほど、わたしを悩ませる麺メニューはありません。

月見うどんの一般的なイメージ

ケトル Vol.15 2013年10月発売号』(ケトル編集部・著/太田出版・刊)では、東京都西新宿にある「慎」のうどんを紹介しています。

麺はオーダーが入るごとにこねて切るそう。

(中略)

その麺にたっぷりたまごを絡ませてずずっとひと口。スープと麺に触れてほどよく固まったたまごが麺のつるつるした食感を引き立て、麺のつるつるはたまごの粘り気を引き立てる。ああ、なんて素晴らしい関係。

(『ケトル Vol.15』から引用)

なんという牧歌的な食レポでしょうか。おいしそうですが、月見うどんの本当の恐ろしさを伝えきれていません。

月見うどんが恐ろしい理由

月見うどんには、隙(すき)が無いのです。安易に斬り込めません。殻から割りたてホヤホヤの「生卵の黄身」は、不用意に箸を近づけようものなら、すぐに崩れてしまうからです。

黄身が崩れると、うどんの汁が濁ります。見た目はともかく、うどん全体の味が悪くなる。火が通っていない黄身というのは生臭いからです。

「生卵の黄身」だけを先に食べればいい。誰もが考えることですが、そうは問屋が卸しません。白身が邪魔をするからです。

月見うどんは、食べるときに緊張を強いられるため、とても厄介で、恐ろしいとさえ感じてしまう麺メニューなのです。

難攻不落の月見うどん

黄身にキッスしようと思えば、まず白身を片付ける必要があります。

白身の守りというのは意外と分厚いです。埋め立てる前の大坂城の外堀に匹敵します。なかなか本丸(黄身)にたどりつけません。

垂直攻撃という手もあります。黄身の真上からキッスする作戦ですが、机上の空論と言わざるを得ません。かけうどんの熱い湯気に阻まれるからです。そうでなくても、生卵はその自重によって汁面下に潜航しがちです。

このように、手出しできない生卵を眺めながら、うどんの麺だけをひたすら食べることになります。「月見うどん」とはよく名付けたものです。いつも敗北感に打ちひしがれます。

月見うどんの食べ方

わたしは、月見うどんを好みません。これまで説明してきたように、月見うどんには「シナジー(相乗効果)」が無いからです。

でも、月見うどんを食べざるを得ないときがあります。うどんは有るけれど、冷蔵庫の中にほとんど何も無いときです。なぜか生卵は残っています。月見うどんにするのがいちばん簡単です。

不本意ながら身につけた、わたしなりの「食べ方」を紹介しましょう。

序盤は、まさに「お月見」状態です。生卵にはいっさい箸を触れません。崩してしまって汁が生臭くなることを防ぐためです。

麺をあらかた食べ終わったあと、まずは白身を吸い取ってから、メインディッシュである黄身を丸ごと「ちゅるん」と吸い込みます。

このとき口のなかいっぱいに生臭い味が広がりますが、最後まで崩さなかったという達成感があります。

月見うどんを楽しむ方法

生卵の黄身だけを使うというアイデアがあります。はじめに白身を取り除いておけば、うどんの汁が水っぽくなることもありません。黄身にキッスしやすくなる。

もっとも確実な「月見うどんをおいしく食べる方法」は、生卵以外のトッピングを追加することです。

生卵プラスアルファがあれば、生卵ごときに一喜一憂せずとも、熱いうどんをおいしく食べられるからです。エビの天ぷら、野菜のかきあげ、甘辛く煮た油揚げや牛肉などの具材があれば、卵の黄身なんて惜しくありません。

月見うどんの生卵なんて飾りです。

偉い人にはそれがわからんのです。

(文:忌川タツヤ)

ケトル Vol.15 2013年10月発売号

著者:ケトル編集部
出版社:太田出版
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