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フジコ・ヘミングの言葉があなたを救う

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心身共にまいったとき、フジコ・ヘミングの演奏を聴くと、心と体が再生されると聞いたことがある。
私はあまりクラシックを聴かないので、「ふーーん、そんなものなのかな」とだけ思っていたのだが、「その言葉は本当だったのだ!」と思う経験をして、フジコ・ヘミングには他の人にはないパワーがあると、再認識しているところだ。

引きこもりの少女

知り合いのお嬢さんが突如、家から出られなくなった。
一日中、部屋に閉じこもっていて、トイレにさえ行こうとしない。食事はドアの隙間から受け取るものの、食べているかどうかさえわからない。お風呂にも入らず、部屋から出そうとすると、泣き叫ぶ。
ご両親は心配のあまり、わめくように「学校でいじめられの?」とか、「体の具合が悪いの?」と、尋ねるのだが、返事はない。
ドアの向こう側から、獣のような雄叫びが聞こえてくるだけだという。

少女を救った旋律

それからしばらくして、偶然にそのお嬢さんに会った。
部屋から出られないと聞いていたのだが、一人で商店街を歩いていた。
顔色は青白く、元気はなく、かなり太っていたけれど、私が知っている彼女がいた。
「久しぶりね~。元気?」と、聞くと、「おばちゃん、フジコ・ヘミング知ってる?」と、聞いてくる。
「知ってるわよ。素晴らしいカンパネラを弾く方でしょう?」と、答えると、嬉しそうに笑い、「私ね、フジコ・ヘミングが大好きになったの。それで、ピアノのレッスンに通っているの」と、いうではないか。

フジコ・ヘミング、その壊れやすい繊細な心

少女の笑顔が忘れられず、帰宅してすぐに『フジコ・ヘミング 運命の言葉』(フジコ・ヘミング・著/朝日新聞出版・刊)を読んだ。
そして、引きこもりの少女が、太陽の下を歩けるようになるだけの力がフジコ・ヘミングにはあることを知った。

フジコ・ヘミングはベルリンで生まれている。
天才少女と騒がれ、東京芸術大学在学中にNHK毎日コンクールに入賞し、文化放送音楽賞も受賞した。
将来を嘱望されるピアニストであったのだ。
その後、ヨーロッパで演奏家として訓練を重ね、いよいよ一流のコンサートピアニストとしてデビューする寸前、風邪をこじらせ、聴力を失うという絶望的な不幸に見舞われる。
リサイタルは中止となり、ピアノ教師をしながらなんとか糊口をしのぐ日々。
しかし、フジコ・ヘミングは負けなかった。
あきらめることなく、ピアノに向かい続ける。

苦しみぬいたピアニスト

NHKのETV特集「フジコ~あるピアニストの軌跡~」がきっかけとなって、彼女は一躍有名になる。
発売されたCD「奇跡のカンパネラ」も売れに売れ、貧困にあえいだ日があったことなど嘘のようだ。
しかし、フジコ・ヘミングの音楽は、誰も知らなかった頃から、人の心を打つものだったのだ。
周囲ともなじみにくいその生き方は、孤独のままに、自分を鍛える毎日につながる。

珠玉の言葉に胸が震える

ピアノの演奏だけではない。
彼女の言葉、生き方そのものが、私たちの心を激しくゆさぶることを『フジコ・ヘミング運命の言葉』は教えてくれる。
いくつか紹介したい。

「運命は、いつか必ずやってくる」
「世の中に、心から嫌な人間なんていないはずよ」
「私のピアノはテクニックで弾くというものではない。音のひとつひとつに色をつけるように弾くのだ」
「どこにもパラダイスなんてないのよ。ひとつの場所で辛抱していた方が早く実る」
「いつかは、この状況から抜け出せる日が来ると信じていたから、不幸だって思ったことはないのよ」
などなど。

(すべて『フジコ・ヘミング 運命の言葉』より抜粋)

ピアノが打楽器だったことを思い出させるフジコ・ヘミングの言葉

私は気力がなくすぐに「人間、あきらめが肝心」と、たいして努力することなく、「ま、いいか」となってしまう。
けれども、フジコ・ヘミングの言葉、そして、演奏は、私の心をたたき、揺さぶるものとなった。
ピアノは打楽器だと頭ではわかっていたが、彼女の言葉に打たれながら、心でそれを実感し、涙ぐむ。
もう前には進めないと絶望したとき、どうして私がこんな目にとうらめしく思ったとき、運命に負けることなく、鍵盤をたたき続けたフジコ・ヘミングの姿を思い出したいと思う。

(文:三浦暁子)

フジコ・ヘミング 運命の言葉

著者:フジコ・ヘミング
出版社:朝日新聞出版
人気ピアニスト、フジコ・へミングのベスト・セラーの文庫化。フジコ・へミングが過酷な人生経て人気ピアニストになるまでを語る自伝的エッセイに最新インタビューとオリジナル写真を加える。読む人を勇気付けるづけるフジコ語録もフィーチャー。

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