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牛丼と半熟卵とたっぷりのネギは最高の組み合わせ

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受け取った「多すぎる釣り銭」をごまかす行為は、罪に問われるらしい。しかし、それが「多すぎるフライドポテト」ならば、申告せずに食べたとしても罪に問われることはなさそうだ。

わたしには何度も経験がある。慣れていない店員が、サイドメニューのフライドポテトを多く盛り付けてしまうのだ。Mサイズを注文したはずなのにLサイズの分量だったことが実際にあった。ラッキー。

分量を間違えてしまうのは、飲食店で働きはじめてから日が浅い者にはよくあることだ。フライドポテトについて、味付けの濃淡や「少なすぎる!」というお叱りはあるだろうが、「多すぎる! 減らせ!」と怒る人は少ない。

牛丼屋でも似たようなことがある。と言っても、牛肉や玉ねぎの量ではない。トッピングの「刻みネギ」の分量だ。

牛丼屋で本当にあった話

近所の松屋で「旨辛ネギたま牛めし」を注文したときのことである。いかにも慣れていない感じの若い男性店員が、忙しそうに働いていた。すでに先客がいた。どうやら店内には従業員が1人しかいないようだった。

わたしが立ち寄ったのは午後の3時すぎだった。昼食のピークタイムを過ぎているため、店員の配置が手薄いようだった。

食券を渡す。彼も運が悪い。1人勤務の時間帯だというのに、わたしの後にもつぎつぎとお客がやってきた。たとえ慣れている店員でも、すこし慌ててしまう状況だ。

「早い」を売りにしている牛丼屋にしては、このとき10分ほど待たされた。あきらかに手際が悪かった。ようやく運ばれてきた「旨辛ネギたま牛めし」を見たわたしは驚いた。実際の盛りつけとメニュー写真とが異なっていたからだ。

刻みネギが異常に多かったのである。刻んだ青ネギが、牛丼の表面をスキマなく覆い隠していた。つまり、メニューの見本写真よりも実物のほうが豪華だった。ネギ好きのわたしは大喜びで食べた。

「ネギたっぷり旨辛ネギたま牛めし」はうまい

別の日、同じ店で「旨辛ネギたま牛めし」を注文してみた。しかし、適正量の刻みネギがトッピングされたものが運ばれてきた。たしかにメニュー写真どおりだが、正直言って物足りなかった。たっぷりの刻みネギが恋しかった。

それから数ヶ月後のこと。わたしの願望が天に届いたのか、松屋で「ネギたっぷり旨辛ネギたま牛めし」という新メニューの販売が始まった。

わたしはさっそく注文した。感動の再会だった。通常の牛めしの上に「たっぷり」の名に恥じないほどの青ネギが、丼の表面を覆い隠していた。半熟卵つき。牛肉とネギのうえには、コリアン風味のスパイシーな甘辛いタレをかけてある。

前作「旨辛ネギたま牛めし」は並盛390円だった。今回の「ネギたっぷり旨辛ネギたま牛めし」は並盛400円である。刻みネギの量が倍増したにもかかわらず、値上げは10円に抑えられている。

はじめは、牛肉とネギで飯を食う。甘辛いタレが食欲を増進させる。なるべく半熟卵を崩さないように気をつける。白飯が半分ほど減ったら、半熟卵をとろりと崩して、まぜまぜして、ビビンパ気分で残りを平らげる。何度食べても大満足できる一品だ。

牛丼屋で働くひとたちの秘密

牛丼屋で失礼な接客をされたことがほとんどない。地域差や個人差があるかもしれない。わたしにとって牛丼屋は、心が弱っているときでも安心して立ち寄れる場所だ。

頼んだものが来るまでのあいだ、わたしは牛丼屋の店員さんをそれとなく観察することがある。牛丼屋で働いているひとに興味があるからだ。もしも機会があれば、牛丼屋でアルバイトをしてみたい。

牛丼愛』(小野寺史宜・著/実業之日本社・刊)という小説は、わたしの好奇心を満たしてくれた。飲食店の内情や、牛丼屋で働くひとたちのゴシップ(下世話ばなし)を題材にしているので、わたしも店の一員になってそれを楽しんでいるような疑似体験ができた。

(文:忌川タツヤ)

牛丼愛

著者:小野寺史宜
出版社:実業之日本社
時給はいいけど、仕事はキツイ。深夜、強盗に狙われる事件も増えている。そんなリスクを顧みず、「美味い・安い・早い」を求めるお客さんのため、「牛丼屋」という職場で働く若者は多い。しかし、彼らが抱える事情はさまざまで……。牛丼屋で交錯する“おかわりのできない”ひとつひとつの人生を、クールな筆致でテンポよく描く。話題作『転がる空に雨は降らない』の新鋭が放つ、傑作牛丼屋エンタテインメント!

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