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チャンスの神様は徳島の山にお住まいかもしれません

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〝Iターン〟という言葉を見聞きするようになってから、しばらく経つ。都心部で生まれ育ち、働いていた人たちが地方企業に転職したり、移住したりすることを意味する言葉だ。こうしたトレンドは、別方向からも見ることができる。2000年代前半、過疎化に危機感を抱く数多くの地方自治体が、1947~1949年に生まれた第一次ベビーブーム世代の定年退職者を見据えながら、Iターン的アプローチを通じて新しい定住者誘致の具体策を次々に打ち出し始めた。

Iターンと田舎暮らし

そして最近、紙媒体でも映像媒体でもよく見るようになった〝田舎暮らし〟という言葉。旬なワードとして取りざたされるようになったのは〝Iターン〟よりも後だったが、今はほぼ同義語というニュアンスで使われているようだ。

定住人口を増やしたい地方自治体が、仕事や住まいをはじめとする生活全般に関するさまざまなメリットを提供し、それに魅力を感じた人たちが新しい土地で新しい暮らしを始める。

JOIN=Japan Organization for Internal Migration (移住・交流推進機構)という組織のウェブサイトには、定住希望者に提供される以下のようなメリットが紹介されている。
・石川県かほく市=市内に一戸建て住宅を新築・購入の方に最大200万円の奨励金を交付
・北海道利尻町=町営保育所に入所で保育料無料
・長崎県平戸市=市内で製造業及び情報通信業の会社を創業する方に500万円を上限に補助

〝Iターン〟とか〝田舎暮らし〟という言葉をキャッチフレーズに定住人口の増加を図ろうとする地方自治体はかなり多い。JOINのサイトには、2016年度最新版で実に8496に上る全国自治体支援制度がリストアップされている。

消えゆく街

2014年5月、日本創成会議・人口減少問題検討分科会において、東京23区内で唯一豊島区が2040年に消滅する危機にさらされていると発表された。駅全体での1日あたりの利用客がおよそ250万人に上る池袋駅を擁する豊島区でさえ消滅の可能性があるのだ。

日本創成会議の資料によれば、2010年から2040年の30年間で20~39歳の女性人口が半分になる「消滅可能性都市」――昭和のSF小説のタイトルみたいだ――は日本全国に896自治体ある。このうち2040年の人口が1万人を割る523自治体が「消滅の可能性が高い」と位置付けられている。また、秋田、山形、岩手、青森、島根の5県は市町村の8割以上が消滅するという予想が提示された。限界集落という言葉も脳裏をよぎる。

徳島県内限界集落の挑戦

限界集落。絶望的な響きだ。65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める地域を意味する。限界集落分布の割合は全国平均だと15.5%だが、徳島県の数値は実に35.5%に上る。

前述のとおり、さまざまなメリットを打ち出して定住人口を増やそうとする地方自治体は数多く存在する。ただ、徳島県の地方自治体はこうしたトレンドに乗っかっているだけではない。ちょっと違ったやり方で魅力を発信し、それが認識され、定着している。

キーワードは、「攻めの集落再生策」だ。そして、その中核と呼ぶべきコンセプトが〝サテライトオフィス〟である。限界集落とサテライトオフィス。ミスマッチとしか思えない組み合わせが想像を超えた化学反応を起こし、ものすごい推進力が生まれた。

やったらええんちゃう

『徳島発幸せここに 第1巻 若い力を惹き付ける地方の挑戦』(徳島新聞社・著/ブックビヨンド・刊 )は、体裁としては地方創生のルポルタージュなのだが、各章ごとに現れる登場人物がとてもチャーミングで、小説に近い感覚で読める。登場人物の一人ひとりが絶対的な自信を抱いていて、揺らぐところが全くない。その信念は、こんな言葉に表れている。

人、モノ、自然。田舎には都会にない価値がある。
チャレンジの舞台として地方を選ぶ若い人たちがいる。
集落消滅の危機感から立ち上がった住民たちがいる。

『徳島発幸せここに 第1巻 若い力を惹き付ける地方の挑戦』より引用

こうした信念があったからこそ、成功は目に見える形で実現した。

私たちの古里・徳島には、全国から視察者が訪れる地域活性化のトップランナーとされる町がある。葉っぱを和食のつまものとして商品化したビジネスで知られる上勝町もそう。古民家にIT系企業がサテライトオフィスを次々と置いた神山町もそう。

『徳島発幸せここに 第1巻 若い力を惹き付ける地方の挑戦』より引用

神山町のNPO法人グリーンバレーは、求職者支援訓練講座〝神山塾〟を運営している。塾生が学ぶのは、地域活性化にまつわるコーディネート業務一般だ。塾生募集サイトには、「やったらええんちゃう」というタイトルが付けられている。攻めの集落再生策のスピリットは、このひと言に凝縮されているのではないだろうか。

チャンスは、どんなタイミングにどんな姿で、どこに現れるかわからない。東京のような大都会で掴む人もいれば、神山町のように緑豊かな山の中で掴む人もいるだろう。

一度行ってみようかな。神山町。

(文:宇佐和通)

徳島発幸せここに 第1巻 若い力を惹き付ける地方の挑戦

著者:徳島新聞社
出版社:ブックビヨンド
2013年夏から、取材を続けてきた。徳島を古里に持ち、「田舎の価値」なんて、分かっていたつもりだった。取材を通じ、多くの人に出会った。彼ら彼女らは私たちに多くのことを教えてくれた。印象に残った取材現場の中から一つを挙げる。「人は疑ってかかれという世の中で私は育った。けど上勝の人は警戒することなく、私を家に上げてくれる。通りすがりに庭の花の写真を撮っていただけの私に、採れたてのキュウリをくれる」。2014年9月、徳島の山あいの町・上勝町にインターンシップとして来ていた女子大学生は10日間の滞在を振り返り、感想を語るうち、涙が目からあふれた。人口減少という転換期を迎えた日本が未来をどうデザインするのか。地方にそのヒントはある。

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