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自己啓発グルメに気をつけて!

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若気の至りは、誰もが経験することだ。芸能人やミュージシャン、スポーツ選手に憧れるあまり、ヘアスタイルや染色、ファッション、メイク、ライフスタイルなどをコピーしたくなる。せめて外見だけでもマネすることによって一流と呼ばれる人物に近づきたい、という向上心のあらわれだ。お手軽な自己実現と言い換えることもできる。

ライフスタイルの一部、たとえば「食」をモノマネすることでも自己実現欲求を満たせる。近年であれば、有名人が愛好しているお取り寄せグルメに舌鼓を打ったり、レストランにてお冷ではなく常温の水を所望したり。

あこがれの有名人と同じものを口に入れることによって、凡人には至れない「何か」を達成したような気分になれる。いわば自己啓発グルメだ。

一世を風靡した"イチローの朝カレー"

かつて「朝カレー」ブームというものがあった。イチロー選手が毎朝カレーライスを食べていることを報じたテレビ番組がきっかけだった。

日本のプロ野球だけにとどまらず、世界最高峰のメジャーリーグでも実力を証明したイチロー選手。グローバルな舞台でも結果を出すことができた超一流アスリートの風変わりな食習慣は、いつのまにか健康法や成功法則へとすり替えられていった。

いわく「カレーに使われる香辛料(スパイス)が血流を促進することによって脳を活性化させるから、1日の活動をはじめる朝に食べると良い」といった後付けの栄養理論だ。

実際のところ、イチローは健康法のつもりで朝カレーを毎日食べていたのではない。スポーツ選手であるイチローは、自己管理の一環として様々なルーティン(決められた動作)を生活に取り入れていた。話題になった朝カレーも、イチロー流ルーティンのひとつにすぎなかった。

朝カレーが健康法ではなかったことの証明としては、イチローの次なるルーティン朝食が「ソーメンと食パン」だった事実がある。炭水化物をおかずにして炭水化物を食べる。ラーメンライスやお好み焼き定食であっても毎朝食べるのはツライ。さすがイチロー選手。超一流アスリートのやることには常人の理解がおよばない。

食通はワサビを醤油に溶かさない!?

若き日のわたしが憧れたのは、食通(グルメ)だった。きっかけは『美味しんぼ』という漫画作品である。究極と至高のメニュー対決。美食倶楽部。無農薬栽培。本物の食材。十代のわたしは、山岡士郎と海原雄山が論じる正統グルメ思想に毒されていった。

自己啓発グルメは凡人を虜(とりこ)にする。わたしは、いまだに美味しんぼの呪縛に囚われ続けている。刺し身を食べるとき、けっしてワサビを醤油に溶かさない。『美味しんぼ』第6巻に収録されている「辛味の調和」というエピソードの影響だ。

箸で適量とったワサビを、刺し身にそっと載せる。醤油をひたして良いのは切り身の底面のみだ。醤油に溶かせばワサビの持ち味を損ねてしまう。醤油の風味も台無しになる。刺し身の本当のうまさを味わえない。

本番直前にブドウ糖を大量摂取するのは逆効果

危惧すべきなのは自己啓発グルメだけではない。近年では、栄養素の純粋成分への盲信も目立つようになってきた。栄養サプリメントをはじめとして、プロポリスやローヤルゼリーの原液、ブドウ糖そのものをありがたがる風潮だ。

仕事で圧倒的な成果を残すハイパフォーマーが実践する 飲食の技術』(ながいかよ・著/すばる舎・刊)によれば、激しい活動(運動)の前に張り切って多量のブドウ糖を摂取すると、かえって低血糖状態になるおそれがあるという。急激に上昇させたものは、急激に下降するからだ。

勝負どころでスタミナを維持するための正しい方法がある。

スポーツ選手は、競技の何日か前から糖質の多い食事を摂ります。これを「グリコーゲンローディング」といい、肝臓や筋肉のグリコーゲン量を増加させてスタミナをつけるという方法です。

(『仕事で圧倒的な成果を残すハイパフォーマーが実践する 飲食の技術』から引用)

「カーボ・ローディング」とも呼ばれるこの方法は、医学的にも立証されているらしく、プロのアスリートだけでなく、マラソン愛好者のあいだでもよく知られている。

『美味しんぼ』にも、糖分摂取の工夫にまつわるエピソードがある。第37巻に収録されている「努力の和三盆」だ。若い女性ヴァイオリニストが演奏中にスタミナ切れを起こすことで悩んでいた。ヴァイオリン演奏は体力を激しく消耗する。あるヴァイオリニストは「演奏直前に大量の白砂糖をそのまま食べる」ことでスタミナ不足を補うらしいが、それがイヤでたまらないので、ヴァイオリニストを続ける自信がないと弱音をはいていた。

山岡士郎は、「和三盆糖」を使った菓子を紹介する。アクが少なく上品な甘さなので、砂糖特有のアクが苦手な人でもたくさん食べられる。その女性ヴァイオリ二ストは和三盆糖のおかげでスタミナ問題を克服できたというわけだ。

……が、医学的にみれば、上白糖もグラニュー糖も黒糖も和三盆糖も、いちどに大量摂取すれば急激な血糖値の上昇をまねくことに変わりはない。すると、血糖値を下げるために大量のインシュリン分泌がおこなわれ、反動的な低血糖状態をまねくおそれがあるという。
まねをしてはいけない。

(文:忌川タツヤ)

仕事で圧倒的な成果を残すハイパフォーマーが実践する 飲食の技術

著者:ながいかよ(著)
出版社:すばる舎
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