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ある日突然、テロリストの家族になったら、あなたはどうしますか?

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陰惨な事件が起こり、容疑者が判明すると、「この人はどうしてこんな人物になってしまったのだろう」という疑問を抱く。
実家には一斉にマスコミが集まり、「どんな育て方をしたんですか?」と、質問を浴びせかける。
両親が謝罪するシーンが容赦なく映し出されることもある。
犯罪を起こしたわけでもないのに、責任を追及されるのは両親だ。
もちろん、被害者の家族は胸が張り裂けそうだろう。
しかし、加害者の家族も煮え湯を飲むような思いに耐えなければならない。
それも、突然に。そして、永遠に。
ただし、それは親に限ったことではない。
ここにもひとり、家族が犯罪を起こしたため、悲惨で混乱した人生を歩み、そして今も歩んでいる人物がいる。

地獄の日々が始まった夜

1990年11月5日のこと。
アメリカはニュージャージー州のクリフォードサイドパークにあるアパートの1室で、ひとりの男の子が母親に揺り動かされ、起こされ、目を覚ました。
小太りで、甘えん坊の、ごく普通の男の子。
人気アニメの柄がついたパジャマを着て、いつものように、いつもの部屋でぐっすり寝ていた7歳児・・・。
この日を境に、平和な毎日は終わり、地獄のような毎日が始まった。
名前も捨てた。
ザック・エブラヒムも仮名だという。

父がテロリストとなった日

男の子の名は、ズィー。
アメリカ人の母親とエジプト人の父親の間に生まれたシャイで従順なお利口さんだ。
ママが好きで、パパを尊敬する彼は、両親の言うことに逆らわない。イスラム教の礼拝も欠かさない。両親が望んでいると、わかっていたからだ。
両親は裕福ではなかった。有名でもなかった。
しかし、ズィーにとっては、憧れの対象だった。
特にエンジニアの父は、ズィーに様々なことを教えてくれる頼もしい存在だ。
しかし、あの日、父はズィーたちの父であることを捨て、テロリストとして生きることを選んだ。
家族には何も知らせることなく、ユダヤ防衛同盟の創立者であるラビ・メイル・カハネを銃撃し、殺害したのだ。
その日から、一家は貧困にあえぐようになり、同時に、あらゆる意味で有名になった。

TEDでも会えます

テロリストの息子』(ザック・エブラヒム+ジェフ・ジャイルズ・著、佐久間裕美子・訳/朝日出版社・刊)には、ズィーこと、ザック・エブラヒムが味わった苦しみが、大胆に、正直に、書かれている。
2014年のTEDカンファレンスで行われた講演を元にして制作された本だから、トークそのものにも興味がある方はTEDのウェブサイトも見ていただきたい。

今もちょっとぽっちゃりした彼に会える。
穏やかな顔、にこやかな語り口。
しかし、彼の傷は深い。

テロリストになった父

いまだ刑務所にいる父とは関係を断った。面会も断った。それでよかったと思うしかない。

父と話すことをやめて得た利点のひとつは、9月11日に起きた下劣な事件の数々について説法を聞かずに済んだことだ。

(『テロリストの息子』より引用)

ズィーの父、エル・サイード・ノサイルは、ある日を境に、突如、テロリストのエル・サイード・ノサイルになった。
父について、彼はこう言っている。

父は、知られているかぎり、アメリカ本土で初めて人の命を奪った最初のジハーディスト(イスラム教の聖戦主義者)だったのだ。

(『テロリストの息子』より引用)

それだけではない。
父は服役中に世界貿易センターの爆破を計画した。
1993年、計画は実行に移され、多数の死傷者を出した。
こうした一連の行動は、自分自身の家族をも打ちのめすテロ行為でもあったことを果たして父は知っていたのだろうか。

いじめと折檻の日々

一家の生活はめちゃくちゃになった。
殺害の脅迫を受け、メディアからの執拗な嫌がらせにも耐えなければならなかった。
名前を変え、町から町へ、引っ越しを繰り返す日々。
「新しい出発」だと勇気を振り絞ってみても、新しい土地での毎日は、以前よりもずっと過酷なものとなった。
12歳になる頃、学校でのいじめのひどさに自殺を考えたほどだった。
いじめの描写は読むのがつらいほど激しい。
しかし、もっとつらいのは母が再婚した相手から受けた折檻だ。
ボクサーの継父はズィーと弟をしつけの名のもとに殴り続けた。これでもか、これでもか、と。

この親にして、この子あり

何よりも彼を苦しめたのは、かつて射撃練習場で叔父が満面の笑みを浮かべて言った言葉だった。
「イブン・アブ(Ibn abu)」。すなわち、「この親にして、この子あり」。
射撃練習場で、ズィーの撃った弾が偶然、標的のてっぺんにある電球に命中し、爆発するかのように、発火したのだ。
命中!!である。
叔父は思ったのだろう。
「さすがノサイルの息子。テロリストの血が流れている」と。
だから嬉しそうに笑ったのだ。
しかし、ズィーにとって、これはどうしても認めたくない言葉だった。
自分もいつかテロリストとなるよう刷り込まれていたら? という恐怖を胸に生きていかなくはいけない。
果たして彼は血の宿命から逃れられるのか?
考えずにはいられない重い命題に答えは出るのだろうか。

(文・三浦暁子)

テロリストの息子

著者:ザック・エブラヒム+ジェフ・ジャイルズ
出版社:朝日出版社
憎しみの中に育っても、「選択」することはできる。ジハードを唱えるようになった父親が殺人を犯したとき、その息子はまだ7歳だった。1993年、投獄中の父はNY世界貿易センターの爆破に手を染める。家族を襲う、迫害と差別と分裂の危機。しかし、狂気と憎悪が連鎖するテロリズムの道を、彼は選ばなかった。共感と平和と非暴力の道を自ら選択した、テロリストの息子の実話。全米図書館協会アレックス賞受賞。

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