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妻が、退職金を持ち逃げした。どうすればいい?

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将来に希望がもてない。生きることに疲れた。だからといって死ぬ勇気はない。

何もかも捨てて、どこかの山奥へ姿をくらましたい。いわゆる「世捨て人」になるための情報を探しているうちに、すごいオッサンの話を見つけた。

彼の名前は、岡田憲三(おかだ・けんぞう)。定年をむかえたあと、退職金をふくめた全財産を奥さんに持ち逃げされてしまった60代の元サラリーマンだ。すべてを失ってヤケクソになった憲三は、山の中で生きることにした。

第2の人生

憲三は、いちど自殺をはかったことがある。死に場所には、故郷である千葉県の天津小湊(現・鴨川市)を選んだ。少年時代にかけまわった懐かしい山のなかで死にたいと思ったらしい。

ロープは丈夫だったものの、くくりつけていた樹木の枝が折れてしまい失敗する。死にきれなかった憲三は「こうなったら死ぬまで生きてやるか」と、ひらきなおる。

山で生きる

もともと死ぬつもりだったから、山で暮らすための準備は何もない。
空腹を満たすため、憲三は幼いころの記憶をもとに落ちていたドングリをたき火に投げこんだ。それは「トウジガシ」という品種で、シブくないし、苦味もない。山中にいくらでも落ちているから、飢える心配をせずに済んだ。

高血圧と糖尿病をわずらっていたはずの憲三は、山の暮らしを続けるうちに健康を回復していく。質素にドングリを主食にして、虫がはいまわる洞穴で雨露をしのぎ、好きなときに眠る。凶暴なイノシシと死闘をくりひろげ、自家製の弓矢で野鳥をうちおとす。たまに海まで下りては昆布をひろい、海水にひたした布きれをあとで乾かせば少量の塩がとれた。甘いものが恋しいときには干し柿を食った。

死にかけた話

「これから考える事は、食う事だけでいい。いやな事、面倒な事は、町の中に全部捨てちまったんだ!」

気ままな暮らしだが、死にかけたこともあった。イノシシに襲われたとき、憲三は10センチ以上の裂傷を負ってしまい出血が止まらなくなったのだ。

死を覚悟した憲三は、意識をもうろうとさせながら応急処置をこころみる。出血を止めるためには縫合(ほうごう)するしかない。何かないかと探した結果、山中に不法投棄されていた太い釘(くぎ)をライターの火で消毒して、それに細いヒモをくくりつけてから、憲三は激痛にうめきながら傷口をぬいあげた。

医者でもないのに、釘とヒモををつかってキズを縫合する――まるで漫画みたいな話だが、これは実際に本宮ひろ志が描いたマンガなのだ。

知られざる名作

岡田憲三(おかだ・けんぞう)という野生化オヤジは実在しない。『まだ、生きてる…』(作・本宮ひろ志)という漫画作品の登場人物であり、すべて作り話なのだ。

本宮マンガといえば『サラリーマン金太郎』が有名だ。元暴走族のサラリーマンである矢島金太郎が、メチャクチャでありながらも筋の通った生き方をつらぬいて出世していく物語だ。すぐに暴力をふるうかと思いきや、いちおうサラリーマンなので金太郎は我慢していることのほうが多い。だが、いったんキレると手がつけられなくなり捨て身で向かっていくものだから、政治家もヤクザも感服する。

まだ、生きてる…』の主人公である岡田憲三も、キレてからが本番だった。たとえば、会社員時代は部下からバカにされるほど気弱だったはずなのに、野生のイノシシをペットにしたり、不法投棄されていたナタやノコギリをつかって家を建ててしまう。

きわめつけは、山の中で首つり自殺に失敗した若い女を助けたあと、共同生活を送るうちに「憲三さんのぬくもりをください」とか言われちゃったり。

今回紹介した『まだ、生きてる…』(全2巻)は、まさに本宮メソッド(キレる→捨て身で暴れる→敵役が主人公にほれる→女も惚れる)を凝縮した内容なので、本宮ひろ志の入門書としてもオススメしたい。

(文:忌川タツヤ)

まだ、生きてる・・・(1)

著者:本宮ひろ志(著)
出版社:サード・ライン
定年を迎えたサラリーマン・岡田憲三。家に帰ると家族は消えていた。妻が全財産を持ち逃げし、息子や娘は音信不通に・・・。生きる事に疲れた希望も無くした憲三は、60年の人生の幕を閉じようと、故郷・房総の山奥に入り首吊り自殺を図るが・・・。現代人に生きる事の意味を問いかける意欲作、第一巻。

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