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わたしは鬼平アニメを楽しみにしている

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鬼平犯科帳がアニメ化されるらしい。「さいとう・たかを」によるマンガを原作にするのかと思っていたら、独自のキャラクターデザインを採用するという。アニメ制作会社が発表した鬼平こと長谷川平蔵のイラストは、原作のテイストと異なるものだった。

鬼平アニメの斬新なキャラクターデザインに対して、ネット上では違和感を表明するコメントが多く寄せられている。

異を唱えたい。鬼平ファンは一枚岩ではない。ファンだからといって、池波正太郎の原作小説やテレビ時代劇を絶対視しているとは限らない。鬼平ファンを自認する者たちが奉っている二代目中村吉右衛門主演のテレビドラマ版のことを、あまり心よく思っていない者もいる。

鬼平"テレビ時代劇"版の現状

はっきり言わせてもらう。老密偵・相模の彦十役の江戸屋猫八が亡くなった時点(2001年)で、新規の『鬼平』のフィルムを撮るべきではなかった。なぜなら、亡き猫八の代役を長門裕之が務めたが観るに耐えないものであったからだ。

長門裕之は名優である。しかし『鬼平』における猫八の代わりは務まらなかった。彦十は猫八であり、猫八は彦十であったからだ。致命的な判断ミスだった。あのときの制作陣およびフジテレビに失望した鬼平ファンは多かったと思う。

そもそも『鬼平犯科帳』では、主要キャラを演じる俳優が亡くなった場合、代役は立てない方針であったはずなのだ。古くは、鬼平の良き補佐役を演じていた高橋悦史が1996年に亡くなったとき、佐嶋忠介役は永久欠番とされた。出番は少ないながらも存在感があったので、多くの鬼平ファンが佐嶋こと高橋悦史の死を悼んだ。

鬼平ファンにとっての決定的な喪失は、密偵・小房の粂八を演じる蟹江敬三が2014年に亡くなったことだ。粂八は、さまざまなエピソードのなかで重要な役割を果たすキャストだ。彦十を演じた江戸家猫八と同じく、蟹江敬三は鬼平ファンにとっては替えのきかない役者だった。

鬼平と江戸グルメ

『鬼平犯科帳』には、江戸グルメ小説の一面がある。火付盗賊改方長官こと長谷川平蔵はうまいものには目がない。本編のところどころに、原作者である池波正太郎の食道楽が反映されている。

もっとも有名なのは軍鶏鍋(しゃもなべ)だ。軍鶏のモツとゴボウのささがきを煮立てた庶民的な一品であり、鬼平の行きつけの料理屋「五鉄」の名物料理とされている。たとえば、中村吉右衛門主演のテレビドラマ版における第1シリーズ第7話「明神の次郎吉」にうまそうな軍鶏鍋が映しだされるシーンがある。「趣味は人助け」という盗賊・明神の次郎吉を演じているのはガッツ石松だ。

第1シリーズ第5話「血闘」では、真夏に熱い甘酒を飲むシーンが登場する。鬼平に付き添っている同心が「夏の甘酒も良いものですな。体が温まって、かえって汗がひきます」と語っている。『江戸食べもの誌』(興津要・著/河出書房新社・刊)によれば、江戸後期のあたりから甘酒は冬だけでなく四季を問わず販売されるようになったという。

池波正太郎は食通として知られているが、高級料理ばかりを好んだわけではない。みずから夜食を用意するなど、庶民的な食材で一品仕上げるのが得意だった。第1シリーズ第23話「用心棒」には、長谷川平蔵が深川めしをうまそうにむさぼり食うシーンが登場する。深川の漁師が売っていたアサリのむき身をネギとあわせて煮込んだものを白飯にぶっかけて食う。平蔵は味噌仕立てが好きだが、料理番の同心は「しょうゆ味のほうがうまい」と言い張る。むきになった鬼平が部下とくだらないことで言い争うシーンが笑いを誘う。

アニメ化の話題に戻るが、いち鬼平ファンからの要望としては、ぜひとも江戸グルメうんちくを織り込んでほしい。記念すべき鬼平アニメの放送をいまから楽しみにしている。

(文:忌川タツヤ)

江戸食べもの誌

著者:興津要
出版社:河出書房新社
川柳、滑稽・艶笑文学、落語にあらわれた江戸人が愛してやまなかった代表的な食べものに関するうんちく話。四季折々の味覚にこめた江戸人の思いを今に伝える。

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