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CIA調査官がつきとめた性犯罪事件の真相

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性犯罪は恥ずかしい。恥ずべき人間たちの巣窟である刑務所内でさえ、性的暴行犯の囚人はひどくバカにされて嫌われるという。性的暴行とは、一時の劣情に身をまかせて他人の尊厳を奪う行為であり、いかなる理由があろうとも同情や情状酌量の余地はない。

しかしながら、性犯罪者にも基本的人権がある。たとえ卑劣な所業をおこなった者であっても、公正な裁判を受ける権利がある。本当に罪を犯したのか。刑罰を与えるべきか。審理するためには、事件の詳細を明らかにしなければならない。警察官や検察官によって取り調べがおこなわれる。

欲求を抑えられなかった

性犯罪者は、社会的制裁の恐ろしさに身を震わせてもがく。気づくのが遅すぎる。受ける刑罰をなるべく軽くしようと、卑劣な行為を自分がやってしまったことを認めたくない。だから「生まれつき性欲が強い」「酔っていた」「欲求を抑えられなかった」などの苦しい言い訳を始める。

逃げ腰のような心理状態の容疑者を自白させたとしても、裁判のときに前言撤回するおそれがある。それでは真の事件解決にはならない。

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック』(フィリップ・ヒューストン、マイケル・フロイド、スーザン・カルニセロ、ピーター・ロマリー、ドン・テナント・著、鈴木淑美・訳/創元社・刊)によれば、性犯罪の取り調べでは、安易な自白を引き出すことよりも、まずは自分のやったことの重大性を理解させたほうが真相究明につながりやすい。

少女と警察署に勤める男性がXXXをした事例

16才の少女ジュディが「警察署につとめるラルフ(24才)と性的関係をもったことがある」と告白した。被害を訴えたのではなく、警察関係者とのおしゃべりのなかで発覚した。もしも本当ならば、公務員による淫行だ。捜査が始まった。

ラルフはイケメンであり、署内の誰からも好かれるような人物だった。取り調べに対して、ラルフは容疑を否認した。証拠がないので、それ以上の追求はできなかった。

思春期の少女による「背伸びをした」虚言かもしれないという見方が強くなってきた。ジュディには性的被害者であることの痕跡や特徴が見受けられなかったからだ。ジュディの父親が、娘に対して「みなさんに嘘をつくなんて! 本当のことを言いなさい!」と反省をうながすほどだった。

ウソつき呼ばわりされるのは耐えられない。ジュディは再調査を求めた。今度はCIAの調査官がやってきた。マイケル・フロイド氏だ

CIAの取り調べテクニック

マイケル調査官は、まずはじめにジュディと面談をした。ジュディは、ラルフ容疑者に恋愛感情をもっていた。関係の深浅はともかくとして、何らかの性的関係にあるのは間違いないと確信できた。ジュディは嘘つきではない。つまり、ラルフ容疑者のほうが嘘をついている。

ラルフ容疑者は、おびえている様子だった。はじめに取り調べをおこなった司法省の調査官から「わいせつ行為をした」と決めつけられたからだ。むきになったラルフ容疑者は再度否定した。マイケル調査官は攻め方を変えることにした。

マイケル「ジュディが言う事件が本当にあったとして、やった人は何を恐れていると思いますか? そのことについて真実を話したくないという最大の理由は何でしょう? 最大の不安は何でしょうか?」

ラルフ「私がしたとしたら?」

マイケル「ジュディが話していることを、あなたでも誰でもしたらの話です」

ラルフ「こちらが大人で相手が未成年なら、罪になって刑務所行きとか」

(『交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック』から引用)

このやりとりによって、ラルフ容疑者が「ジュディとの関係を自白したら刑務所行きになるかもしれないという不安」から真相を隠しているのだとわかった。

取り調べのゴールは「真実を得ること」

マイケル調査官は尋ねた。「あなた(ラルフ)は性犯罪者には見えない」「もしかして彼女(ジュディ)から誘ってきたのではないか」……ラルフのことを犯罪者と決めつけていないことを暗に伝える。そうすることによって、ラルフ容疑者は少しずつ本当のことを話しはじめた。

ジュディに「家まで送って」と言われて応じたこと。車内でジュディのXXに触れてしまったこと。でも、それ以上の行為はしていないこと。これまで未成年と性的接触をもったのはジュディだけであること。ラルフに余罪はないと判断した。

真実が明らかになった。ジュディは嘘つき呼ばわりをされずに済んだ。合意があったとはいえ、未成年への不適切な行為を罰するためにラルフは懲戒免職になった。その後、別の土地で正職を得ることができた。双方にとって悪くない結末だ。

もしも1人目の調査官のように「わいせつ犯」と決めつけるような態度であったなら、ラルフは否認を続けた可能性が高い。ラルフもジュディも救われない結果に終わっていたかもしれない。

CIAのマイケル調査官によれば、相手の後ろめたいことを追求するときには「相手が心理的に受け入れやすい言葉を使う」ことが第一だという。犯罪捜査における取り調べのゴールは「自白を得ることではなく真実を明らかにすること」なのだ。

(文:忌川タツヤ)

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

著者:フィリップ・ヒューストン(著) マイケル・フロイド(著) スーザン・カルニセロ(著) ピーター・ロマリー(著) ドン・テナント(著) 鈴木淑美(訳)
出版社:創元社
同じ著者による『交渉に使えるCIA流嘘を見抜くテクニック』の続編。本書では、相手に本当のことを語ってもらうにはどうすればよいのかが、やはり多くの実例とともに語られる。CIAといえば、強圧的な尋問をイメージしがちだが、著者たちは、対立や敵対の中では決して良質の真実は得られないこと、相手を責めず深く理解しようとする気持ち、相手の立場への思いやりこそが心を開かせ人を動かすのだと繰り返し語る。さらに後半部分の付録「ビジネス、法律、および日常生活の場での活用法」には、実際の交渉場面で役立つ知見が満載である。

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