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あの号泣議員は”虚言症”なのか?

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芸術のオリジナリティにまつわるウソ。政治資金の使途にまつわるウソ。医学的な新発見にまつわるウソ。芸能人の恋愛や結婚にまつわるウソ。世の中にはいろいろなウソであふれている。

はじめはたったひとつの小さなウソから始まり、発覚を恐れるあまり新たなウソを塗り重ねるうちに、世間を大きく騒がせる事件に発展する。嘘をついた者は、なんらかの社会的制裁を受ける。痛い目を見る。

「嘘つき」と呼ばれる者たちの心は悪意に満ちているのだろうか。そうとは限らない。なぜなら、ウソをついている自覚のない「嘘つき」もいるからだ。虚言癖や虚言症という「心の病気」だ。

普通では考えられない嘘をつく

虚言癖、嘘つきは病気か Dr.林のこころと脳の相談室特別編』(林公一・著/インプレス・刊)によれば、世間で嘘つきと呼ばれる者のなかには、いわゆる「虚言症」の特徴を見出せる者がいるという。

精神医学では、虚言癖や虚言症について明確な定義はないそうだ。しかしながら「病的な虚言」を弄する者は世の中に多い。

Case1 嘘ばかりの夫

夫はたとえば、最近まで自分は外科医であると言い張っていました。実際は金融関係のサラリーマンです。
(中略)
彼の父親は今までで2度死にました。でも実際は健在です。一度目は心臓発作で急死し、家族の嘆く姿、葬式のやり取りを兄弟が自分だけに押し付ける等の不満までリアルに語りました。(中略)すべて嘘でした。

あるときは自分はガンを患ったと涙ながらに告白。最初は肺ガンだと言っていたのに、睾丸ガンへ、そして脳ガンへ話が移行しました。実際医者にも数度行っていて、検査しても何ともないのに自分はガンだとまた繰り返します。

(『虚言癖、嘘つきは病気か』から引用)

病的な虚言において共通するのは「たくさんの嘘をつく」「ふつうでは考えられないような嘘をつく」ということだ。

湧き出るストーリー

『虚言癖、嘘つきは病気か』にて「Case31 懲りない詐欺の繰り返し」として紹介されている26歳の男性は、典型的な嘘つきであり、詐欺によって逮捕・服役・仮出所を何度も繰り返している。取り調べをするなかで「あまりの虚言のため精神障害の可能性を疑われ、精神鑑定が行われた」ほどの嘘つきだった。

詐欺をおこなっているときは「嘘ははじめから用意していない。その時その時に応じてうまく出てくるものだ」と供述している。これは虚言癖の特徴である「湧き出るストーリー」が該当する。

ほかにも、名刺や本物の制服を用意するなどの手間をかけるわりには、食事をおごってもらったり少額の金銭を詐取するだけにとどまっていた。メリットが少ないにもかかわらず何度も詐欺をおこない、何度も逮捕されて、出所したあとに詐欺を繰り返している。

病的な虚言者は、ウソをつくことによるメリットとデメリットを正確に計ることができない。だから「懲りない」。

M口H史さん。iPS細胞研究者(?)

2012年10月の読売新聞に「IPS心筋移植 初の臨床応用 ハーバード大日本人研究者 心不全患者に」という見出しの報道がなされた。しかし、のちに誤報であると訂正された。M口氏本人も「ついウソをついてしまった」と認めている。本職の新聞記者が、病的な虚言者にふりまわされたことによって起きた事件だ。

報道の3日前には、iPS細胞を開発した山中伸弥教授のノーベル賞受賞ニュースがあった。そんなときに「iPS心筋移植が成功した。東大病院会議室で取材を受けるから話を聞いて欲しい」と言われれば、新聞記者だってだまされてしまう。

巧みな舞台設定」を用意してウソをつくのは、病的な虚言者にみられる特徴だ。「iPS細胞の心筋応用」というきわめて専門的な事柄だったことは、まさに「検証困難性」を利用したウソだと言える。

N村R太郎さん。元兵庫県議員

号泣議員として世間を楽しませてくれた騒がせたN村R太郎さんが、記者会見で見せたふるまいの数々は、いかにも病的なものに見えてしまう。元議員は、はたして「病的な虚言者」なのだろうか?

Case24 N村R太郎氏

○たくさんの嘘をつく
○普通では考えられないような嘘をつく
1800万円以上の政務費不正取得。たくさんの嘘だ。普通では考えられない。

○検証困難性
簡単に検証され、嘘がばれた。本書の他のケースと比べると、あまりにも稚拙な嘘である。

○巧みな舞台設定
ぜんぜん巧みではない。

○湧き出るストーリー
そういう才能もなさそうに見える。

○懲りない
一発で懲りたようである。

(『虚言癖、嘘つきは病気か』から引用)

ことごとく一刀両断している。精神科医の林公一先生によれば、N村R太郎さんは「病的な虚言者」には当てはまらないという。号泣会見でのふるまいは病的だったものの、元議員は単なる「嘘つき」にすぎないようだ。ちなみに、2016年7月に懲役3年執行猶予4年の有罪判決を受けたあと、N村さんは控訴しなかった。判決が確定している。

(文:忌川タツヤ)

虚言癖、嘘つきは病気かDr.林のこころと脳の相談室特別編

著者:林公一
出版社:インプレス
大好評『家の中にストーカーがいます』以来の新刊。サイトでは読めない、渾身の書き下ろし中心です!
<まえがきより>本書は、虚言者、または虚言者かもしれないケースの実例集である。だが彼らを非難する本ではない。そういう意図は一切ない。嘘はいけない。嘘は悪。それが人間社会の普遍ともいえる道徳律だ。嘘つきは泥棒の始まりという言葉もある。それでも本書は、嘘つきを非難しない。記載はする。分析もする。だが非難はしない。(略)虚言についての医学的研究は驚くほど少ない。虚言は精神医学の死角にある。もとより、精神の病とは病気か病気でないかの境界が曖昧なものだ。境界は揺れる。時代によって。文化によって。社会によって。個人の考えによって。そして、時代も文化も社会も、個人の考えの集合から成り立っている。だから、一人ひとりのお考えが何より大切である。虚言癖、嘘つきは病気か。それは本書の44のケースを通して、読者の一人ひとりにお考えいただく問いである。

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