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ヒマなお金持ちと貧乏だけど生きがいのある人、どちらがいい?

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最近、2人の対照的な人の話を聞いた。ひとりは、会社を早期退職したという50代女性、もうひとりは、店を開くことになった50代男性の話だった。気になったのは早期退職した女性のほうで、老後を生き抜く十分な財産も年金準備もある。何の心配もいらない人生に見える。しかし、彼女は悩んでいた。「これから何をしたらいいのかわからない」と……。

もう一つの人生

彼女はひたすら仕事をしてきた。朝から晩まで、時には休日も働き、それゆえ使う暇がなかったから蓄財もできたし、家もある。もうこれ以上お金を稼ぐ必要はないので50代で早期退職もした。庶民から見れば勝ち組だし、羨ましさしかない。それなのに彼女は、呆然としていた。これから始まる、長い第2の人生に何も見えてこないからだ。やりたいことがあるわけでもない。旅行で行きたいところもない。欲しいものもなく、お金と時間を持て余していたのだ。

対して、50代でお店を開くことになった男性は、バツイチで、成人した子どももいる。このたび、若い女性と授かり婚し、新しく生まれてくる命のために、一念発起して商売を始めることになったのだ。大変だよ、店を出すのに金もかかったし。もう子育ては終わったと思ってたのに、これからまた子どもで金がかかるなんて参っちゃうよ。彼はそうぼやいた。けれどこう続けたのだ。「俺さ、またもう一度、やり直してみようと思ってんだ。1からさ」。彼の瞳は明るく輝いていた。

幸せとはどういうものか

経済的には、早期退職した彼女は十分だ。けれど彼女は決して幸せではないと言っていたし、この先が何も決まっていない、と不安がっていた。対して、経済的にはもしかしたらマイナス状態かもしれない開業準備中の男性のほうは、エネルギーに満ち、これから始まる新しい暮らしに胸を躍らせていた。この2人を見て、人はお金だけでは幸せにはなれないのだとしたら、何で幸せを感じるのだろう、と改めて考えていた時に『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』(中野明・著/学研プラス・刊)を読んだ。

心理学者アドラーは「人生の意味とは与えられるものではありません。自ら作り出すもの」だと言った。そして彼は幸せを手にする唯一の鍵は他者への貢献だと考えたという。他者への貢献度が高い人ほど、幸福感を得やすいのだそうだ。自分は役に立っている。その充足感こそが人生の意味にもつながるのだと。

誰かとつながるという感覚

そこで改めて振り返ってみると、確かに早期退職した女性は、仕事を辞めたこともあり、誰かの役に立っているという感覚に乏しかった。「ボランティアでもしてみようかな」とぼやいていたのも、他者への貢献をしたいからだったと考えれば、納得できる。対して開業準備中の男性は、店というスペースを地域の人のたまり場にもしたいと夢見ていた。彼の中ですでに十分な他者へ貢献できる予感があったから、あれほど生き生きしていたのかもしれない。

アドラーはこのことを「共同体感覚」と呼んだ。共同体、それは、現代人が苦手とするものかもしれない。マンションの隣の部屋の人の顔も名前も知らない、住んでいる駅に知り合いがいない、地域の祭りに参加したことがないなど、ご近所での共同体感覚は確実に失われつつある。代わって現れたのはオンラインでの共同体感覚かもしれない。例えば私がSNSで何かぼやくと、そのことについて教えてくれる人がいる。場合によっては私の代わりにわざわざ調べてくれる。時には必要なものを送りましょうかと言ってくれる。たまたま同時刻に居合わせ私の発言を読んだ人が、親切にしてくれる。これは新しい共同体感覚なのかもしれない。

先日、私は早期退職した女性に共通の知り合いの連絡先を尋ねた。するとすぐに教えてくれた。尋ねたのはSNSのアカウントだったのだけど、他に知りたい情報はあるか、などと親身になってくれた。大丈夫、ありがとうと伝えると、なぜか向こうから「これからもよろしく」というメールが来た。彼女は寂しいのかもしれない、誰かと繋がっていたいのかもしれない。明るい彼女なので、きっとそう時間がかからずに、新しい居場所を見つけられることだろう。そこが彼女の魅力を存分に発揮できるような、つまり他者貢献ができるような場所であるといいなと思う。

(文・内藤みか)

超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本

著者:中野明
出版社:学研プラス
フロイト、ユングと並ぶ心理学の巨人、アルフレッド・アドラー。”自己啓発の源流”として知られるその学説の核をなす「幸福」の概念を、アドラーと後進心理学者の説を比較しつつ、大胆な図解を駆使してわかりやすく解説する。短時間で一気に読める本。

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