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なぜ、「ノマド」ブームは廃れたのか?

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「働き方」という漠然としたテーマは、漠然としているからこそ、いくらでも議論をふっかけることできるし、新しい言葉や切り口をいつでも欲していると言える。次々巻き起こる「働き方」をめぐる議論、一頃前に流行った「ノマド」ブームはひとまず終息した感がある。

もてはやされた「ノマド」というキーワード

ノマド=nomad、英語で「遊牧民」を表すこのキーワードは、特定のオフィスを持たず様々な場所で仕事をするスタイルとして、とりわけ若い世代でもてはやされ、キーワードのアイコンとなるような起業家、クリエイターが次々と登場した。そこここで終身雇用への疑義、年金制度の限界が叫ばれる中、会社に縛られない、自分ならではの働き方を手に入れることへの羨望が、たちまち高まっていった。イケダハヤト氏は『新世代努力論』の中で、ノマドについて「キーワードとして廃れただけで、『何ものにも縛られずに、好きなことをして生きていきたい』という若者世代の『ノマド志向』はそう変わっていない」「ノマド的な人々が増えていけばいくほど、その欲求も高まっていくと思われます」と書く。

「ノマド」はなぜ必要以上にキラキラ輝いていたのか

「ノマド」というキーワード自体、単に仕事の「状態」を表す言葉にすぎないのだが、そこにたっぷりと「気持ち」を注ぎ込まれた感がある。だからこそ流行るのは一瞬で、たちまち消費されてしまった。フリーランスなど昔からどの業界にもいるわけで、「ノマド」は既存の状態を新しいキーワードで言い放ったにすぎず、何か新しいことを興しているわけではない。SNSの発展、Wi-Fi環境の充実などが「ノマド」というキーワードを必要以上にキラキラ輝かせたのは確かだが、冷静になってみれば、そこまで新しくなんてなかった、というわけ。

高度成長時代の成功体験から1回も更新されていない働き方

新しい働き方を模索するよりも、旧来の働き方を根底からじっくりと否定することのほうが、結果として新しい働き方を導けるのではないか。イケダ氏は「一人ひとりの努力が足りないのではなく、社会全体として、努力が報われにくくなっているのです。地盤沈下しているようなものです。それは、誰か個人のせいではありません」とする。執拗に、今の労働市場、高度成長時代の成功体験から1度たりとも更新されていない働き方が古びていることを突つく。

「努力しろ!」に頷かない若者は醒めているわけではない

とりわけ、「努力」という言葉の暴走。「努力すればなんとかなる」「できないのは努力が足りないからだ」……努力すれば確かに儲けが上がった時代にはその声かけが機能したのかもしれないが、努力だけではそう簡単に儲けが上がらない時代に、「努力しろ!」の連発を醒めた目で退けていく若者は、むしろ建設的かもしれない。「努力しろ!」に頷かない若者を、「醒める若者」とジャッジしがちだが、ただただ冷静な判断をしただけに過ぎない。つまり、同調しても何一つ好転しないことを皮膚感覚で分かっているのだ。

自己責任論は自己弁護である

企業の論理が育んできた「努力」を好む人たちは、その論理外で起きた個人の窮地については押し並べて「自己責任」という言葉を投じる。イケダ氏は書く。「自己責任という言葉が使われるとき、そのほとんどは『自業自得』と同義として使われている」。「責任はあなたにある」と諭すのは、その裏側に「責任はこちらにはない」という態度が用意されている。個人の行動でなにかミスをしてしまった時に徹底的に個人を叩くのは、これまで続いてきた組織を守るためでもある。努力が不足していたからだと、個々人を突つく。このようにして相手に「自己責任だ」とジャッジを下すのは自己弁護なのだ。

「今威張っているものがなんだ」

まったく唐突だが、アナキストの大杉栄はこんなことを言っていた。
「なんでも変わらないものはないのだ。古いものは倒れて新しいものが起こるのだ。今威張っているものがなんだ。すぐにそれは墓場の中へ葬られてしまうものじゃないか」(『自叙伝』)
「ノマド」や「新しい働き方」といった思わせぶりな言葉が廃れてくるのは、むしろ健全な流れかもしれない。それらのキーワードは、どこかで「今威張っているもの」を認めた上で対抗しているような言葉である。誰かから問われる「努力」を根から無視しようとする新世代の「努力」が機能すれば、「ノマド」といったキーワードはますます必要とされなくなるだろう。

(文:武田砂鉄)

 

新世代努力論 「恵まれた世代」は判ってない。これがぼくらの価値観だ。

著者:イケダハヤト
出版社:朝日新聞出版
「努力すれば報われる」というのは、破滅的な考え方だ──86世代の人気ブロガー・イケダハヤトが、同世代の生き方、考え方を掘り下げて紹介。読めば、若者の行動が浮き彫りになる。現代社会を読み解くための必読の書。

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